新海誠監督の最新作「すずめの戸締まり」美術監督・丹治匠さん…廃虚の光、大切に描く

 全国上映中の新海誠監督のアニメーション最新作「すずめの戸締まり」で、美術監督を務めた福島市出身の丹治匠さん(47)が読売新聞のインタビューに応じた。「君の名は。」などの新海監督の旧作でも美術スタッフを務め、芸術性の高い美術背景を手がけてきた。美しい背景の制作秘話とともに、今作で触れられている東日本大震災への思いを聞いた。

全国東宝系で公開中の「すずめの戸締まり」(c)2022「すずめの戸締まり」製作委員会© 読売新聞

 ――アニメ映画の美術監督はどんな仕事か。

 「今回の映画では、それぞれのシーンがどんな場所で、どこに何があるのかといった設定をまず決めました。それを基にスタッフが美術背景を描き、最終的に一つのテイストになるように私が調整します。キャラクターを描くことはしていません」

 ――映画ではいくつか廃虚が出てくる。最初に出てくる廃虚は、水面にぽつんと扉がたたずんでいるのが印象的だが、どういう設定か。

 「人のいなくなった温泉街で、温泉のお湯を利用していたドーム型の植物園です。扉は、実は管理事務所があったという設定です。スケッチをいっぱい描いて新海監督とやりとりをして、ああいう象徴的な絵になるように逆算して決めました」

 ――苦労したシーンは。

 「廃虚のシーンですね。廃虚っていうと汚くなりがちですが、アニメーションの背景は美しく描きたいと思っているんです。そこで肝になるのは、光がどういう風に入るか。光を丁寧に描けば廃虚も美しく描けます。光は、時間や季節、天候で変わりますよね。状況が描写できるという点でも、光の描き方は大事にしたいと思っています」

 ――今回の映画は東日本大震災にまつわるもの。震災の時は何をしていたか。

 「高校を卒業してからは地元を離れ、地震の時は東京で仕事をしていました。原発事故で福島県産の食品は一時、風評被害もあって敬遠されるようになってしまったことに、ふるさとが失われた感じがしました」

 「私は絵本も書いていて、物語を作りたい人間なのですが、この時は物語よりもリアルの方が大変で、物語に果たして力はあるのだろうかと悩みました」

 ――今回の映画の震災への向き合い方や描き方をどう思うか。

 「様々な困難をどう乗り越えて生きるかという話だと思っています。その題材がたまたま震災だったということ。そういう意味では、震災を知らない若い世代にも届くのではないでしょうか」

 ――映画では、福島第一原発事故によって人がいなくなったと思えるような場所を通るシーンもある。

 「実際に、原発事故で住民が避難した場所を見に行きました。作中では原発に対する思想を描くのではなく、事故による避難があった場所を示すにとどめることで、こうした困難にどう立ち向かうかを考えるきっかけになると思っています」

■福島市写真美術館で「丹治匠絵本原画展」

 福島市写真美術館(福島市森合町)では6日まで、「丹治匠絵本原画展」を開催している。丹治さんが制作した「はなちゃんのぼうし」「かぁかぁもうもう」といった子供向けの楽しい絵本の原画やイラストが展示されている。開館時間は午前9時~午後4時半(入館は午後4時)、入館料は一般200円、高校生以下100円。

■「すずめの戸締まり」あらすじ

 旅の青年・草太と出会った高校生の鈴芽(すずめ)は、山奥の廃虚にぽつんとたたずむ古い扉を見つける。草太は「扉」の向こうから厄災がやってくると言う。日本各地で次々と開き始める「扉」の鍵をかけなければならない。2人の「戸締まりの旅」が始まった。

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