突然ですが、「地頭がいい」ってどういうことでしょうか。あえて「地」頭と表現することで、生まれもっての頭の良さというイメージがありますが、鍛えることはできないのでしょうか。
地頭とはOS。そのスペックは日常のさりげない「マジックワード」で上げられる
地頭とは、どこでも、どのような時代でも生き抜いていけるだけの素地――。こう定義するのは、教育評論家の石田勝紀さんです。
地頭をスマートフォンやパソコンのOS(基本ソフトウエア)に例える石田さん。OSが低スペックだと、新たなアプリケーション、つまり知識やスキルをインストールしても、効果は最大化されず、時にはインストールすらできないと言います。
石田さんによると「地頭はOSのように、アップグレードしてパフォーマンスを上げられる」もの。
では、どうすれば地頭を鍛えられるのでしょうか。「日常のなかでさりげない “マジックワード” を自他に投げかけることで、自身や周囲のパフォーマンスを高められます」。そう語る石田さんが提唱するマジックワードとは、次の10個です。
- 「なぜだろう?」
- 「どう思う?」
- 「どうしたらいい?」
- 「要するに?」
- 「たとえば、どういうこと?」
- 「楽しむには?」
- 「なんのため?」
- 「そもそも、どういうこと?」
- 「もし〜どうする(どうなる)?」
- 「本当だろうか?」
これらのマジックワードを投げかけることで、考える力を鍛えられると石田さんは言います。考える力とは、「疑問をもつ力」(自問)と「まとめる力」(自答)に分解され、特に「まとめる力」がOSのスペックを決める本質的な要素だとのこと。
その「まとめる力」とは、抽象化したり具体化したりする力です。「ロジカルに物事を考えるうえで、必須の力です。特に大事なのが、抽象化すること。抽象度を高めれば、全体像が見え、本質的な問題を認識・解決しやすくなります」(石田さん)。
マジックワードを投げかけるほか、日常のちょっとした心がけも重要だとか。石田さんいわく「たとえば、普段男性とばかり話している人は女性と話すようにする、若者とばかり話している人は、年配者と話すようにするとか、その程度のことでもいいんです」。そうして「自分の知らない世界をのぞくこと」が大切なのだそうです。

「具体と抽象を行き来する力」「発想の幅広さ」「考え抜く力」が課題解決のベースとなる力
マーケティングのデジタルトランスフォーメーション(DX)推進を展開するWACULの竹本祐也CFO(最高財務責任者)は、「地頭とは、立方体の体積」と話します。具体的には、具体と抽象を行き来する力(上下)、発想の幅広さ(左右)、考え抜く力(奥行き)の3軸で構成される「立方体の体積」だとのこと。これが、課題を解決するためのベースとなる力なのだそう。
具体と抽象の行き来とは、考えの高さや深さを意味します。物事を俯瞰する力だけではなく、深く掘り下げる力との両方を備え、双方を自在にできることを言います。
発想の幅広さは、何か課題が出たときにどんどんアイデアを出していける能力。
考え抜く力は、我慢して考え続けられる能力で、「思考体力」と言い換えられます。

では、3軸をどのように身につければよいでしょうか。
竹本さんは「まずは、全体感をつかんだり、深く掘り下げたり、アイデアを出す能力を身につけたほうがいい」と話します。具体と抽象を行き来する力(上下)の軸と、発想の幅広さ(左右)の軸を伸ばすのが先決だということです。
考え抜く力・思考体力(奥行き)の軸については「体力」なので、鍛えようと思えば鍛えやすいため、あとでもよいかもしれないと竹本さん。「じっくり考える行為を繰り返しているうちに、だんだん体力がついてくるのではないでしょうか」。
ある程度、発想の自由さという面を広げたあと、アイデアにさらに幅広さを出すためにも、何時間考えられるかという「思考体力」が重要になってくるそうです。
「幅広さを出すとき、アイデアが3つまではすぐ出てくるが、4つめ、5つめが出なくて、諦める人もいます。ですが、自分の限界点を3ではなく、4や5にすることで、考え続ける習慣をつけることができます」(竹本さん)。

名門PEファンドが重視する「RIFA力」。高めるのに必要なのは「能動的に考えること」
1992年設立で国内屈指の実績を誇るPE(プライベート・エクイティ)ファンドのアドバンテッジパートナーズ。意外にも、採用において、地頭のよさは、さほど重視していないと言います。地頭よりも大事なのは、当事者意識や適応力だそう。
同社のパートナー(※)、市川雄介さんは「関与し順応する動的な知性」をとても重視していると話します。(※プロフェッショナルファームにおける最高位、もしくはそれに近い職位の名)
「関与」が大事な理由は、ファンドマネージャーの仕事は投資先選定から投資後の成長支援まで一気通貫で関わるものであるため。ディレクターの鈴木雄斗さんは「投資先の人たちと密にコミュニケーションをとり、相手の心を動かしながら成果を出すため、主体的に関わっていく力は必須」「投資前はロジカルさが問われることが多いのですが、ロジックだけだと机上の空論になる。特に投資後の仕事を『血の通ったもの』にするため、(関与する力=当事者意識は)必要な力」と言います。
そして「順応」は、「新しい情報や人や状況」に、既存の計画を変えつつ対応する力。
いまは「VUCA(ブーカ)の時代」、つまりVolatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)に満ちた状況と言われます。コロナの影響で市場の状況が変わったのなら、速やかに方針も変える――といったように、自分を変え、周囲を変える「適応力」が必須になっていると市川さんは話します。
このような時代で価値を出していくために必要な「関与し順応する動的な知性」ですが、さらに「Resilience(回復力)、Involvement(関与すること)、Flexibility(柔軟性)、Adaptability(順応性)の4要素に分解できます。いうなれば、頭文字をとって『RIFA(リファ)力』と言えます」(市川さん)。

それらの力は、どのように高めていけるのでしょうか。
鈴木さんは「簡単に答えが出ないものについて、思考する経験を増やすこと」、市川さんは「簡単なところでは、最低1か月に1回、現状の改善や新しい施策を先輩や上司へ提案したかと、問い直すこと。さらに、自分自身や関わっているプロダクトをどう変えて適応していくかを、能動的に考えること」と話します。
まとめ:「地頭」を細分化して理解すれば、自分がいま伸ばすべき力が見えてくる
今回は、教育評論家、プロフェッショナルファーム経験者の方々による「地頭」の定義をご紹介しました。前編とあわせ、ぜひみなさんに合った「地頭」の鍛え方を見つけていただければ幸いです。