- 実際原価計算とは、購買・生産で実際にいくら数量を使ったか・作ったか、経費・労務費などを実際にいくら使ったのかを集計し、各品目にかかったコストを算出する機能です。
この記事では、実際原価計算の考え方・手順について解説していきます。
また、こちらの記事でCOモジュールの概要について解説しています。 CO初めての方はCOモジュールの全体感を掴んでからこの記事を読み進めた方が理解が進みやすいと思いますので、まずはこちらの記事を読んでみてください。【SAP】COモジュール(管理会計)の概要ついて徹底解説!
Contents
実際原価計算とは
実際原価計算とは、購買・生産活動においてどれだけコストがかかったのかをコストベースで算出する機能です。
実際原価計算をすることにより、標準原価(理論値の原価)と実際原価(実際かかった原価)を比較することができ、どのポイントでロスが発生したのかを分析することができます。
実際原価計算をするためにはPP(生産)・MM(調達)の機能が必要なため、ERPであるがゆえにできることです。
そのため、SAPを導入することのメインの目的の1つに原価計算分析が入るプロジェクトが多いです。
実際原価計算の考え方
まずは実際原価計算の考え方について解説していきます。
製造指図実績
実際原価計算は、製造指図を元に計算されます。
ちなみに標準原価計算は、BOM・作業手順マスタを元に計算されます。
図にするとこのようなイメージです。
PP(生産)にて、
- BOMマスタ・作業手順マスタを登録。
- マスタを元に製造指図を登録
- 製造指図を元に製造実績を登録
CO(原価)では、
- BOMマスタ・作業手順マスタを元に標準原価計算
- 製造実績を元に実際原価計算
- 標準原価と実際原価を比較し、原価差異分析
上の図で、実際原価を語るうえで、「製造実績」が重要であることが理解いただけたかと思います。
製造実績
続いて、製造実績によりどのような会計仕訳が起きるかを簡単に説明していきます。
製造指図に対して、製造実績では次の3つの実績を計上していきます。
- 入庫(生産数量)
- 出庫(構成品使用数量)
- 作業時間
仕訳のイメージで表すとこのようになります。
借方に
- 材料費(出庫)
- 加工費(作業時間)
貸方に
- 出来高(入庫)
という仕訳になります。
BOM・作業手順どおりの実績が入ると、貸借がバランスします。
例えば、出庫数量が理論値(BOMマスタ)より多く使ってしまった場合、多く使ってしまった分も材料費として計上され、貸借のバランスの差分が原価差額として計上されます。
※もし入庫数量(出来高)がマスタよりも多くできた場合、原価差額は借方(左側)に計上されます。
実績活動単価(経費・労務費配賦)
続いて「活動単価」についてです。
活動単価とは、生産作業の加工賃のことで、分かりやすく言うと時給です。
図でいうと、「炊く」という作業の横にワッペンで貼っている「800円 / H」のことです。
活動単価は、経費・労務費の配賦により計算されます。
経費・労務費とは、工場の減価償却費・消耗品費・人件費などのことで、加工賃はこれらの費用を各部門・工程への按分(配賦)により、算出されます。
活動単価の計算・考え方については、こちらの記事で詳しく解説していますので、気になる方は読んでみてください。【SAP】計画活動単価の算出方法について徹底解説!
まず実績活動単価の計算式はこちらです。
①実績活動費用 ÷ ②実績活動時間 = 実績活動単価
①実績活動費用 は、以下2 Stepで算出されます。
- 経費・労務費の計上(経理の日ごろの作業により)
- 計上された経費・労務費を直接部門である製造部課・製造工程の原価センタ x 活動タイプへ配賦
これにより、原価センタ(製造部課や製造工程単位)での①実績活動費用 が算出されます。
②実績活動時間 は、製造指図に計上された「作業時間」のことです。
図にするとこのようなイメージです。
実績活動単価が出れば、計画活動単価(標準原価に使われる加工費単価)との差異比較をし、差異があれば、原価差異として計上されます。
加工費の差異はこんな感じで製造指図に入ります。
実際原価計算 手順
ここまでで実際原価計算の考え方(製造実績と実績活動単価)について理解してもらえたかと思います。
最後に実際原価計算の手順について解説していきます。
実際原価計算の手順は以下のステップで行われます。
月中:7ステップ、月末:7ステップです。
【月中】
① 購買発注伝票登録
原材料や外注のための購買発注伝票を登録します。
購買発注伝票の情報(数量・価格)が標準原価のベースとなります。
② 発注入庫・請求書照合
①の購買発注に対して入庫処理し、買掛金計上のための請求書照合処理をします。
入庫時に購買発注の数量と異なる場合、数量差異として原価差異になり、
請求書照合時に購買発注の価格と異なる場合、購入価格差異として原価差異になります。
③ 製造指図登録
半製品・製品を生産するための製造指図を登録します。
製造指図の情報(生産品数量・構成品数量・作業時間)が標準原価のベースとなります。
④ 指図入庫
③の製造指図に対して生産品の入庫処理をします。
入庫時に製造指図の生産品数量と異なる場合、数量差異として原価差異になります。
⑤ 指図出庫
③の製造指図に対して構成品の出庫処理をします。
出庫時に製造指図の構成品数量と異なる場合、数量差異として原価差異になります。
⑥ 作業完了確認
③の製造指図に対して作業時間の計上処理をします。
作業時間計上時に製造指図の作業時間と異なる場合、操業度差異として原価差異になります。
⑦ 経費・労務費計上
FI(会計)やMM(調達)モジュールから、経費・労務費が原価センタに計上されてきます。
【月末・月初】
ここからは月末・月初の処理です。
実際原価計算は月に一度実施のため、月のすべての製造指図を対象に実施していきます。
基本的にすべてジョブ実行していく処理です。
⑧ 指図ステータス変更
実際原価計算対象となる製造指図のステータスをTECO(技術的完了)に変更します。
⑨ 実績費用配賦
⑦の経費・労務費を製造部門・製造工程の原価センタへ配賦します。
⑩ 実績原価分割
⑨の原価センタ単位の実績活動費用を活動タイプごとに分割します。
⑪ 実績活動価格計算
⑨の実績活動費用と⑥の実績活動時間から実績活動単価を算出します。
⑫ 指図再評価
⑪の実績活動単価と⑥の実績活動時間から実績加工費を算出します。
⑬ 差異計算
製造指図単位に標準原価・実際原価を比較し原価差異計算をします。
⑭ 指図決済
⑬の原価差異の確定処理をします。
サマリ
ここまでで実際原価計算の考え方・手順について解説してきました。
基本的に、製造実績・実績活動単価によって、原価差異が算出されます。
実際原価計算をすることにより、標準原価との差異が分かり、コストベースでロスの大きいポイントの分析ができるようになります。
これはERPを導入し、ロジと原価がつながることにより成せる業で、SAP導入の醍醐味と言っても過言ではありません。
この記事を読んで少しでも理解いただければ幸いです。