スウェーデンでは小学生でもデビットカードを保有している。日本でもキャッシュレス化を完成させるには、未成年者への対応にも目を配る必要がある。スウェーデンに加え、イギリス、アメリカにおける未成年者へのキャッシュレス決済手段の提供状況を見てみよう。
7歳になるとデビットカードが発行される―スウェーデン
キャッシュレス決済の手段には様々なものがあるが、いずれも決済のためにはアカウントが必要である。一般的に、デビットカード用の銀行口座のほかに、クレジットカードアカウント、プリペイドカードアカウントがある。未成年者向けにキャッシュレス決済サービスを提供するには、まずは未成年者が、決済用の銀行口座かプリペイドカードアカウントを開設できなければならない。
スウェーデンでは、両親いずれかの銀行口座に付帯する形で、子供口座を開設することができる。年齢は特に制限されておらず、本人に代わって両親が口座の開設手続きをできるようになっている。国から支給される子供手当などは、初めのうちは親の銀行口座で受け取り、子供が成長すると、その受取口座を子供口座に変更するのが一般的のようである。
また、銀行は子供に対して、小学校に入るころ(7歳以上)になるとデビットカードを発行する。現金流通量が極端に少ないスウェーデンでは、現金が利用できない店舗等が多く存在するため、子供のちょっとした買い物や遠足などの際に必要となるのである。
貯蓄機能を備えたプリペイドカードも―イギリス
イギリスでは、11~17歳前後を対象に、親の口座に付帯した形で、子供口座が開設できるようである。銀行大手のロイズTSB、HSBC、バークレイズ銀行、アイルランド銀行(Bank of Ireland)、スコットランド銀行(Bank of Scotland)などが開設を呼び掛けている。
イギリスにおける子供向けの決済カードには、プリペイドカードのほか、子供口座に紐づけられたデビットカードがある。子供口座を開設するとキャッシュ(ATM)カードが発行され、希望によっては国際ブランドのデビットカードも発行される。子供口座で行える預金の引き出し、振り込み、口座振替、自動振替は、1日300ポンドまで。金利も付与され、預金保険の対象にもなっている。
親の口座1つにつき発行を要請できる子供名義のカードは、子供口座1つに1枚、最大3~5枚となっている。イギリスで、親が子供用のカードを作るのは、費用をかけずに子供に貯蓄を推奨し、また、銀行の仕組みを学ばせることができるためである。なお、発行されるデビットカードは大人用と同じ機能をもつ。
一方、プリペイドカードアカウントは、通常8歳から開設できる。プリペイドカードアカウントでは、送金や口座振替が行えない。また、1ヵ月に子供1人当たり1~3ポンド、年間15~36ポンドの利用料がかかる。
それでも、親が子供のプリペイドカードアカウントを開設するのは、カードの利用限度額を自由に設定できることや、子供の消費状況をモニタリングして金融教育につなげられることが理由のようだ。また、ギャンブルやアダルトストアなどでの利用を制限する機能もある。
イギリスの子供向けプリペイドカードは、gohenryの提供するアプリ「pocket money」のように、親のスマートフォンと連動するサービスが多い。
gohenryの発行するプリペイドカードは6~18歳が利用できる。親は子供のアカウントに毎週決められた金額を銀行口座から入金でき、誕生日や特別な買い物のためのイレギュラーな入金も可能である。さらに、決済以外にも目標を決めて貯蓄する機能をもっており、金利は、0.5~3%と銀行の預金口座と比べても、高く設定されている。
カードの紛失や盗難にあった場合は、すぐに親のアプリからロックできる。もし、ロック前に使われてしまっても、50ポンドを超える分については返金される。

ちなみに、子供向けに発行されるデビットカードとプリペイドカードはMastercardやVisaと提携しているので、海外でも利用できる。海外での利用手数料は、最大でも3ポンド程度で、無料のものもある。
子供のデビットカード決済をアプリで管理―アメリカ
アメリカでも、イギリスと同様に子供口座とデビットカードの発行が積極的になされている。ここでは、Greenlight Financial Technologiesが提供するデビットカード「Greenlight」を紹介しよう。
Greenlightは8歳以上の子供をターゲットとしている。イギリスの子供用プリペイドカードのメリットをデビットカードに取り入れたものと言っていいだろう。
月額手数料4.99ドルで、1家族当たり最大5枚までデビットカードを発行でき、顧客は10万人以上に上るという。これほどの人気を得られたのは、カードとアプリを利用することで、子供の金融教育につなげられることが大きい。
さらに、このサービスの特徴として注目したいのは、子供に貯蓄を促すインセンティブとして、銀行が設定する金利とは別に、親が金利を上乗せできる点であろう。親が上乗せする金利の平均は、約19%であるという。消費社会といわれるアメリカではあるが、親は子供に貯蓄の習慣がつくように注力している様子がうかがえる。

日本における金融教育の促進
日本では、カードやスマートフォンで決済する姿を子供に見せたがらない親が多いと聞く。「カード決済で簡単に支払いを済ませるところを見せると、金銭感覚が身につかず、使いすぎの癖がついてしまうのでは」と心配するのだという。そのため、未成年者の銀行口座を開設しても貯蓄用にとどまることが多いようだ。
また、未成年者にデビットカードの発行を認める銀行でも、15歳以上が対象となっており、中学生は除くとしているところも少なくない。ブランドプリペイドカードでも、発行できるのはほとんどが12歳以上である。
欧米のキャッシュレス先進国では、小学生にもデビットカードやプリペイドカードが発行される。一方、日本では長い間、金融教育は「貯蓄の奨励」+「無駄使いと借金の排除」にとどまり、お金の適切で有効な使い方、計画的な借入と返済、投資教育などは行われてこなかった。大人でも、クレジットカードや住宅ローンの賢い利用法を知らない人は少なくない。
金融教育を促進させるためには、金融機関からの働きかけが必要であろう。低年齢の子供を対象とした銀行口座開設とともに、金融教育のツールとなるサービスを金融機関自身が提供するのである。例えば、スマートフォンアプリ経由で、預貯金の変動、利息、カード利用状況などを、親子で共有できるサービスなどが考えられよう。こうしたサービスにより、親子で金融機関に興味をもってもらえれば、将来の取引相手を囲い込むだけでなく、その両親に、教育ローンや住宅ローンなどの潜在的なニーズを掘り起こすこともできるのではないだろうか。