データドリブンなビジネスモデルの確立を目的とする DX の加速とミッション クリティカルなシステムの移行をどう両立させるか――。昨今こうした観点から注目を集めているのが Google Cloud だ。Google Cloud は、要件が厳しいエンタープライズのワークロードやアプリケーションに対応するように設計され、最新の Intel テクノロジーを採用し、安定した稼働環境を実現。また、SAP ERP システムとシームレスな連携したサービスの活用により DX を加速させることができる。
本サイトでは、主に SAP ERP システムの導入・移行をご検討中の企業・組織を対象に、SAP on Google Cloud の真価がどこにあるのか、そのメリットや活用方法について紹介していきたい。
- Episode01アフターコロナを見据えた企業が
「SAP on Google Cloud」を選ぶ理由とは - Episode02急速に進む SAP システムのクラウド移行
Google Cloud Platform による課題の解消法は - Episode03SAP ERP の移行をわずか 4 か月で完了
「攻め」と「守り」を両立した IT 基盤を実現 - Episode04国内基幹システムを SAP S/4HANA へ統合
クラウド化した分析基盤でデータ活用を加速
Episode 01
アフターコロナを見据えた企業が
「SAP on Google Cloud」を選ぶ理由とは
コロナ禍への突発的な対応が一段落し、既存 SAP システムの SAP S/4 HANA への移行検討が再び本格化している。これは IT 部門だけではなく、経営層にとっても重要な検討事項だ。しかし、デジタル化の推進やカーボン ニュートラルへの対応など、経営視点での要求事項への対処が最優先される中、システム老朽化にともなう単なる「移行」や「バージョン アップ」といった従来のアプローチでは、膨大な移行コストと労力ばかりがかさむことになるため、既存 SAP システムの更改に二の足を踏む企業は少なくない。
こうした課題を解消し、さらに デジタル トランスフォーメーション(DX)実現に向けた SAP S/4 HANA 導入の最新ソリューションとして今、注目を集めつつあるのが Google Cloud による SAP ソリューション(SAP on Google Cloud)だ。SAP on Google Cloud により、企業はどのようなビジネス メリットが得られるのか。
なぜ 今 SAP on Google Cloud が注目を集めているのか?
SAP ERP から SAP S/4HANA の移行が本格化しつつある。アフターコロナを見据え DX の推進が急務になる中、老朽化・複雑化したいわゆるレガシー システムでは、迅速な経営判断を行っていくことは難しいからだ。
しかし、移行には人材確保や、高い安定性・可用性の確保、移行コストなど、さまざまな壁が存在する。こうした課題を解消するためのアプローチとして注目を集めているのが SAP の Google Cloud への移行(SAP on Google Cloud)だ。
すでにビル テクノロジー業界のリーディング カンパニーである Johnson Controls 社 や米国最大の産業機器販売業者の 1 つ MSC Industrial Supply など、グローバルで 700 社を超える企業が Google Cloud で SAP を稼働させている。日本国内においても、LIXIL やフォスター電機をはじめ多くの企業が SAP のクラウド移行において大きな成果をあげているという。
なぜ SAP on Google Cloud が注目を集めているのか。
「これまでも私たちは、一貫して SAP on Google Cloud で実現するビジネス トランスフォーメーションについて、さまざまな手段を通して、多くのお客様と対話を重ね、SAP 導入の価値最大化を図ってきました。
こうした中で、2020 年に新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大。コロナ禍に直面し、あらゆる企業が例外なく、急激な市場変化にいち早く対応するため、バリューチェーン全体の俊敏性や弾力性の重要性を再認識しました。それにより、 SAP システムと組み合わせた DX プラットフォームとしての SAP on Google Cloud の価値が急速に浸透し始めたと感じています。また、国内外で十分な導入実績が示されたことや導入パートナーが充実してきた点も、安心材料としてお客様の検討を後押しする要因となっています」。
大幅なコスト削減と高い堅牢性の確保が可能
このように大きな注目を集めている SAP on Google Cloud だが、その特長はどこにあるのか。
その 1 つは、コスト削減の効果が非常に大きい点だ。
「SAP on Google Cloud では、平均で約 35 %のコスト削減が実現しています。これはほかの大規模クラウド事業者と比較しても大きな削減率です。その理由は大きく 2 つあります」と山本氏は説明する。
理由の 1 つは、SAP S/4HANA や周辺モジュールを動かす仮想マシンを、きめ細かくカスタマイズできる点だ。「一般的なクラウド サービスでは、仮想マシンのスペックが『松竹梅』のように大まかに決められており、その中から選ぶしかありません。これに対してGoogle Cloud では、CPU 能力やメモリー容量を必要に応じてきめ細かく設定でき、利用コストも最適化しやすいのです」
もう 1 つの理由は、SAP 顧客向けの「Cloud Acceleration プログラム」の存在だ。これは Google や Google Cloud のパートナーが提供するソリューションを活用し、SAP のクラウド移行を簡素化するというもの。これによって移行期間を大幅に短縮することで、移行コストの削減も可能になるという。
ただし、重要なのはコストの削減だけではない。SAP の安定運用のための運用コストや、SAP のメンテナンスに伴って発生する可能性のあるビジネス損失についてもしっかりと考慮し、より堅牢性の高いプラットフォームを選択することが重要なポイントとなる。というのも、多くの企業において SAP は基幹システムとして、ミッション クリティカルな役割を有しているからだ。
これに関しても Google Cloud には、大きな優位性があると山本氏は言う。「一般的なクラウド サービスでは、仮想マシンのメンテナンスのために、年に数回計画停止が発生する可能性があります。これに対して Google Cloud では、仮想マシンを停止せずにほかのハードウェアへと移動させる『ライブ マイグレーション』という機能を提供しており、ハードウェア保守の際にも業務が停止しません。つまり、ダウンタイム(停止時間)をゼロにできるため、一般的に 1 時間の SAP システムの停止で、数億円のビジネス機会の損失とも言われるリスクを最小化することが可能です」。
こうした仮想マシンの信頼性向上や、ライブ マイグレーションを確実に行う上で、重要な貢献を果たしているのが、最新の Intel テクノロジーの採用だ。「例えば、M2 Instance と呼ばれる仮想マシンでは、SAP の大規模なメモリー要件にも対応できるように最大で 12 TB メモリーを日本国内の東京と大阪の両リージョンで提供することが可能です」(山本氏)。
DX 基盤との連携で新たな価値の創造も
加えて注目したいのは、単なる SAP の移行にとどまらず、DX 推進まで加速できる点だ。Google Cloud は、DX のためのデータ統合を行う「Google BigQuery」や、データ解析を可能にするさまざまな AI と機械学習のプロダクト、データ分析ツール「Looker」、システム間のデータ連携を可能にする「Apigee」などがあり、DX 基盤としても有用性が高い。
「SAP を Google Cloud 上で動かすことで、これらの DX ソリューションとの連携も容易になります。実際に BigQuery などを使いたいという理由から、SAP を Google Cloud に移行するお客様も少なくありません。例えば、ある食品業のお客様は、SAP で扱われる顧客と在庫のデータを Google マーケティング プラットフォームの広告効果データと組み合わせて分析することで、顧客への最適な商品の提案に役立てています。また、アパレル業のお客様では、SPA モデルへの転換に向けて、BigQuery や Apigee を活用することで、市場動向に応じた速やかな商品供給や、機会損失、不良在庫をなくす仕組みを構築し、高い収益を目指しています。
また、消費財メーカー様の取り組みも進みつつあります。この業種では、棚卸資産回転率(在庫回転率)は重要な経営指標であり、そのためにリアルタイムな売上状況の把握、さまざまな工程のリードタイムの短縮、欠品率の向上、高度なデマンド分析など一連の業務プロセスの改善に課題感を持っている企業も少なくありません。そこで、Google Cloud のさまざまなサービスを組み合わせ、サプライチェーンの俊敏性の向上を目指しているのです。さらに、製造業では AutoML Vision を活用し、製造品質の改善と品質管理にかかる人的コストの削減に取り組む企業も増えつつあります」
RISE with SAP における Google Cloud の価値とは?
なぜ SAP のアプリケーションと Google Cloud の DX ソリューションがスムーズに連携できるのか。その背景にあるのが SAP 社との戦略的なパートナーシップの存在だ。このパートナーシップに基づき、2020 年 6 月にはドイツで Google Cloud が SAP 社専用のクラウド環境として稼働しており、この上で SAP S/4HANA の主要製品の開発と提供が行われている。また Google の親会社である米アルファベット(Alphabet)社も、SAP S/4HANA をはじめとしたさまざまな SAP サービスを、Google Cloud 上で動かしているという。
「Alphabet では、数年前から SAP S/4HANA を Google Cloud 上で稼働させ、 DX を加速させています。具体的には SAP S/4HANA の財務データと連携したイノベーション領域で、BigQuery や AI、機械学習を活用し、キャッシュ ポジションの正確さと資金繰り予測の精度を大幅に改善。財務部門はより一層、財務の安定化と戦略的決断を下しやすくなりました」(山本氏)。
なお SAP 社は 2021 年 1 月に「RISE with SAP」を発表し、サービスとしての SAP S/4HANA 提供も行っているが、その稼働基盤の 1 つとしても Google Cloud を選択できるようになった。
「RISE with SAP により、企業はコンサルティング、ワークロードの移行サービス、継続的なトレーニングとサポートを活用でき、よりビジネス変革のための業務に集中することが可能となります。特にインフラ周りだけではなく SAP S/4HANA そのものの運用まで任せることができる上、DX 推進が容易になる点は大きなメリットです。これによってリアルタイム経営が可能になり、適切な意思決定を迅速に下すことも容易になるはずです。
このようにRISE with SAP を中核とした緊密な協業により、両社は DX に取り組む顧客への価値拡大を進めていく考えだ。
SAP S/4HANA への移行に向けたタイムリミットは刻々と近づいている。これを単なる移行にとどめるか、戦略的な DX 基盤にするか。経営層は熟慮の上で何がベストかの判断を求められているだろう。
図 「SAP on Google Cloud」がもたらすメリットと利用企業の価値

データ統合(BigQuery)、データ解析(AI / ML)、データ分析(Looker)、データ連携(Apigee)の 4 つのソリューションを SAP と連携させることで、DX 推進も加速しやすくなる