DX(デジタルトランスフォーメーション)の概念について何となく聞いたことがあっても、「IT化のことではないのか」「要するにAIやIoTを導入することではないのか」など、疑問に思っている人もいるのではないでしょうか。
昨今開催されている企業の経営者たちが集うビジネスカンファレンスでも「DX」について語られるケースは非常に増える一方、実行施策の一例を聞くと、過去と変わらない「既存の業務システムのリプレイス導入(載せ替え)」であったということも見受けられます。DXという抽象的な解釈が当てはまるキワードによるある種の弊害なのかもしれません。
DXとIT活用、あるいはIT化とは大きく意味合いが異なります。この違いを理解していないと、DX推進の方向性がずれてしまう可能性があるのです。今回は、DXとIT活用の事例について取り上げ、両者の意味の違いについてご説明します。
INDEX
- 1 DXの定義とは?
- CX・UX……類似キーワードとの違い
- DXの進め方と注意点
- 2 IT化とDXの違いと関係性
- IT化の意味と事例
- IT化とDXの関係は「手段と目的」
- IT化による変化とDXによる変化の違いとは?
- 3 DXがIT化だけで終わらないために必要なことは?
- DX推進の最大のポイントは目的策定
- 4 まとめ
DXの定義とは?
DXとは、Digital Transformationの略語です。Transformationは「変容」という意味なので、DXを直訳すると「デジタルによる変容」となります。デジタル技術を用いることで、生活やビジネスが変容していくことをDXと言います。
DXに関する厳密な定義があるわけではありませんが、経済産業省では、「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」において、以下のようにDXを解釈しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」[1]
このように、DXはビジネス用語として定着しつつあります。データやデジタル技術によって、製品やサービス、ビジネスモデルを「変革」してこそDXと言える点がポイントです。
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CX・UX……類似キーワードとの違い
DXのように、「~X」という略語を持つビジネス用語が2つ存在します。まずCXとはCustomer Experienceの略語で、「顧客体験」の意味を持ちます。Webサイトやカスタマーサポート、営業マンなど、顧客が製品・サービスや企業に接する際の体験の価値を指しています。DXは、デジタル技術を駆使してCXを向上させる試みです。
UXはUser Experienceの略語で、「ユーザー(使用者)体験」の意味です。ユーザーが企業の製品・サービスに接する際の体験の価値を指します。CXと似ていますが、UXの方はどちらかと言うと製品・サービスそのものやWebサイトなどの使いやすさを指すのに対し、CXはより広くアフターケアなどを含めることが多いです。
【関連】DXとCXって何が違う?「誰のためのDXか」から見えてくるデジタル技術の導入目的
DXの進め方と注意点
DXを進めるためには、単に最新のデジタル技術を導入すればいいわけではありません。「製品・サービスやビジネスモデルの変革」こそがDXの目的であるため、DXによってどのようなビジネスを構築したいのか、経営層が戦略を策定することが求められます。「戦略なきDX」は、巨額のIT投資を行うだけの絵に描いた餅に終わる可能性が高いのです。
IT化とDXの違いと関係性
では、IT化やIT導入とDXの違いをご説明します。DXの持つ意味が、IT化と比較することでより明確に理解できるでしょう。
IT化とDXの関係が手段と目的であること、またIT化が既存の業務プロセスの効率化を目指すのに対し、DXがもっと大局的なレベルで製品・サービスやビジネスモデルの変革を目指す点を説明していきます。
IT化の意味と事例
明確な定義があるわけではありませんが、一般的にIT化、IT導入というと既存の業務プロセスは維持したまま、その効率化・強化のためにデジタル技術やデータを活用するというイメージがあります。
例えば、電話や手紙であった連絡手段が、Eメールやチャットツールなどに置き換わったのはその典型です。連絡の是非自体は問われることなく、ツールを導入することで効率化が図られたことになります。近年ではRPAやAI、ビッグデータなど大きな可能性を秘めた技術が次々と登場していますが、既存プロセスの効率化=IT活用に留まるケースが少なくありません。
IT化とDXの関係は「手段と目的」
前述の通り、DXはデジタル技術の活用によって製品・サービスやビジネスモデルに変革をおこすものです。したがって、IT化はDXの手段であり、DXはIT化の先にある目的であると考えられます。
もちろん、IT化の目的が必ずDXである必要はなく、既存プロセスの効率化だけが目的であっても全く問題はありません。しかしながら、なぜITを活用したいのかが明確でないと、単に新しい技術を使ってみることだけが目的となってしまい、利益を生まないIT活用になる可能性もあります。
IT化による変化とDXによる変化の違いとは?
IT化による変化は「量的変化」、DXによる変化は「質的変化」と言えます。
IT化は、既存プロセスの生産性を向上させるものです。何がどのように変化するか、社内でも分かりやすいのが特徴です。それに対してDXは、プロセス自体を変化させます。単に「作業時間が減る」「●●の作成プロセスを自動化する」などの分かりやすい変化ではなく、「顧客との接客方法がデジタルを通じて根本的に運用が変わる」「物流の配送計画をデジタルを用いて確認プロセスが抜本的に変わる」など、会社全体に関わるようなドラスティックな変化であるのが特徴です。

DXがIT化だけで終わらないために必要なことは?
繰り返しになりますが、DXの起こす変化は社内全体に影響を及ぼすほど大きなものです。製品・サービスやビジネスモデルを変革するためのものであるため、「何となくRPAを使ってみたい」「AIを使って新しいことがしたい」だけではDXにはなりません。これでは、DXと言いつつIT活用と変わらないのです。
DX推進の最大のポイントは目的策定
DXを推進するためには、経営層による目的の策定が欠かせません。先ほど紹介したCXも、DXの目的の一つとして考えられます。顧客のニーズに寄り添った変革でなければ、製品・サービスやビジネスモデルをいくら変革しても独り善がりになってしまうからです。
その意味で、IT化にせよDXにせよ、明確に定められた目的を達成してこそ意味のあるプロジェクトになります。どうしても新しい技術は魅力的に見えるため、それを使ってみるだけでも「学びになった」と言ってメリットを感じてしまいますが、それだけでは意味がありません。「CXを向上させる」などの目的を戦略として策定してから、その実現のためにどのようなデジタル技術が必要なのか、という順番で検討するようにしましょう。
まとめ
IT化は、既存プロセスの効率化や強化のためにデジタル技術を活用するものです。それに対して、製品・サービスやビジネスモデルの変革にまで踏み込むのがDXの特徴です。
したがって、「どのような製品・サービスやビジネスモデルを目指すのか」を検討することがDX推進プロジェクトの初期段階で求められます。DXもまた、CX向上のような効果を目的として行われる点にも十分に留意する必要があるでしょう。