粉飾決算や偽装事件など、企業の不祥事が経営の危機に直結する事態が続いたこともあり、、メディアではコンプライアンスがという単語を見かけることが多くなりました。
ところで、コンプライアンスの意味を「法令遵守」と捉えていませんか?「コンプライアンス=法令遵守」と訳されることが多いのですが、コンプライアンスは単に「法令遵守」という意味だけにとどまりません。
この記事では、コンプライアンスの本当の意味、コンプライアンスが叫ばれるようになった背景、コンプライアンスに必要な要素について解説します。
「コンプライアンス」とは何か?
コンプライアンスの意味
コンプライアンスの日本語訳として「法令遵守」が用いられることが多いです。「法令遵守」というと、「法令を守ればよい」と捉えられがちですが、コンプライアンスは単に「法令を守ればよい」ということではありません。法令を遵守するのは当たり前のことで、最低限のことにすぎません。コンプライアンスには、「法令を遵守する」ことに加え、「法律として明文化されてはいないが、社会的ルールとして認識されているルールに従って企業活動を行う」の意味があります。
コンプライアンスが重視されるようになった背景
企業経営の中で、コンプライアンス重視が叫ばれるようになったのは2000年に入ってからです。その背景には3つの要因がありました。ここでは、経営においてコンプライアンスが重要視されるようになった3つの要因について紹介します。
・規制緩和と企業責任の関係
1970年代の日米貿易摩擦を契機に、1980年代に入ってから政府は内需主導による経済成長を目指し、3公社(電電公社、専売公社、国鉄)の民営化、そして規制撤廃を行うことで民間企業の参入と競争の促進を行ってまいりました。
以降、自由な競争のもと、企業は活動が可能となりました。その一方で企業は自らの活動に責任も問われるようになりました。このため、2000年に入り、政府は行政改革大綱で以下のように「企業の自己責任体制」を明確に打ち出しました。
「規制改革の推進に当たっては、例えば、原子力、自動車、乳製品、院内感染、遺伝子組み換え食品等に対する国民の不安、疑念の蔓延状況にかんがみ、特に国民の安全を確保する見地から、企業における自己責任体制を確立し、情報公開等の徹底を図るものとする。」[1]
これにより、各企業は自己責任体制の確立と、徹底的な情報の公開が要求されるようになったのです。
・企業不祥事の増加
企業のコンプライアンス精神が重視されるようになったのは、1990年代から2000年代初頭にかけて不祥事が相次いだためです。代表的な例として、2000年および2004年の三菱自動車リコール隠し、2002年の牛肉偽装事件、2005年の構造計算書偽装事件、2006年のライブドア事件など、多くの企業不祥事が発生しました。加えて、粉飾決算による倒産の増加も、企業にコンプライアンス重視の姿勢を求める要因の一つとなっています。
また、2001年12月のエンロン社の倒産、2002年7月のワールドコム社の倒産など、アメリカでは粉飾決算による大企業の倒産がありました。これを契機に、コーポレートガバナンスを重視する姿勢が求められ、監査の独立性や情報開示の強化などを規定した企業改革法(SOX法)が2002年7月に制定されています。EUでも2001年7月に「企業の社会的責任(CSR)に関するグリーンペーパー(政策の提案)」を発表するなど、CSRの推進を進めています。
・行政の方針変更と法改正
2000年12月に閣議決定された「行政改革大綱」の方針のもと、関連法の改正も行われてきました。また、企業の不祥事や海外の動向を踏まえ、各企業にコンプライアンス体制の確立を求め、法改正を進めてきました。
2006年5月に行われた会社法の改正では、「資本金5億円以上もしくは負債総額200億円以上の企業は、適正な業務の遂行を確保するための体制の構築」を義務付けています。
また、2006年4月に施行された公益通報者保護法は、企業内部からその不正を告発した者に対し、解雇をはじめとした不利益な扱いが為されないよう企業に求めています。
このようにして、企業による不祥事、粉飾決算を起因とした倒産、行政方針の変更、法改正などがあり、企業にコンプライアンス重視の姿勢を求める世論が形成されていきます。
コンプライアンスに必要な取り組み
コンプライアンスのためには会社として整備すべき事項があります。ここでは、会社として整備すべき事項について紹介します。
・行動規範の策定
企業としてコンプライアンスを推し進めるためには、その企業のあるべき行動を規範として定める必要があります。また、定めた行動規範を実践するためには、トップがメッセージとして行動規範の実践を呼びかけるなど積極的な行動が必要です。
・各規程の策定
コンプライアンス推進にあたっては、就業規則をはじめとした各種規定の整備が必要です。また、認識違いがないようにルールを分かりやすく明文化する、ルールをいつでも確認できるよう、イントラネットに掲載するなどの工夫も重要です。
・推進部門の整備
コンプライアンスを推進するためには、組織として推進を行う部門を設置することが必要です。また、もしコンプライアンス上の問題が発生したときは、推進部門が状況の把握や対応、トップへの報告など、権限を持って素早く対処することができるようにします。
・コンプライアンスに対する教育の提供
コンプライアンスの推進において、社員が正しい知識を身につけ、行動することが必要です。そのために重要となるのが、社員に向けたコンプライアンス教育です。具体的な方法として、「eラーニングを活用しながら定期的に教育機会を提供する」などがあります。
CSR とコンプライアンス経営
CSR とは何か?
コンプライアンスを経営の根幹と捉え、推進するにあたり、必要となるのが「CSR(corporate social responsibility、企業の社会的責任)」の考え方です。社会的責任の対象には、株主、取引先、従業員はもちろんのこと、地域住民など、企業が関係する利害関係者全てとなっています。これらに対して責任を果たす必要があります。そして、社会的責任を果たす上で捉えるべき項目として、「企業倫理」「コーポレートガバナンス・内部統制」「SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)」などがあります。
1.企業倫理
企業倫理は、「企業が活動を行う上で、守るべき重要な考え方」です。それは、法令にとどまらず、労働環境や道徳的な考え方など、法令以外の範囲も含まれます。
2.コーポレートガバナンス・内部統制
コーポレートガバナンスは、「コンプライアンス遵守の上で、モニタリングやチェックを行う仕組み」です。そして、内部統制は、企業が自発的に内部で組織を統制する仕組みを指します。コンプライアンスを遵守するためには、コーポレートガバナンスや内部統制といったモニタリングやチェックを行う仕組みが必要です。
3.SDGs(持続可能な開発目標)
SDGs(持続可能な開発目標)は、2015年9月に国連サミットで採択され、2015年から2030年の間に達成するために掲げられた17の目標です。SGDsは、CSR達成のための基準の一つとして捉えている企業が増えています。
CSRの意味を理解し、責任を果たすべき対象と項目を捉えることで、コンプライアンス遵守につながるのです。
コンプライアンスはCSR 経営の根幹をなす
企業の社会的責任(CSR)を遂行する上で、コンプライアンスがその根幹をなすことが分かります。そのためには、企業は、自社がコンプライアンスに取り組む方針を具体的に決め、その姿勢を具体的に示す必要があります。今回示したコンプライアンスの考え方や取り組むにあたってのキーワードを理解し、自社に必要なコンプライアンスの取り組みを実現していきましょう。
まとめ
この記事では、コンプライアンスの本当の意味、コンプライアンスが叫ばれるようになった背景、コンプライアンスに必要な要素について解説しました。
コンプライアンスは「法令遵守」と訳されることが多いのですが、単に法令遵守だけではなく、「社会的ルールに従って企業活動を行うこと」の意味も含まれています。
コンプライアンスを遵守するためには、行動規範や管理体制を整備し、従業員に定期的にコンプライアンス教育を行うことが大切です。
また、企業の社会的責任(CSR)を果たす上で、根幹をなすのが「コンプライアンス」と言えます。
CSRの意味を理解し、企業の社会的責任を果たす上で必要な項目は何かを捉え、考えることが、コンプライアンス遵守を遂行する上では必要です。