豊かで明るい社会であり続けるために~その実現に必要な持続可能性とは

世界では異常気象や環境汚染、人口爆発、経済格差、食料問題など、そして日本では少子高齢化による人材不足など、個人の努力や一国の取り組みだけでは解決できない課題が顕在化しています。これを放置すれば、生活や産業、社会を維持することすらできなくなる可能性が出てきています。「持続可能性(サステナビリティ)」とは、既存のモノやコトの機能を、将来にわたって失うことなく維持し続けていくためのシステムやプロセスのことを指します。

企業経営のあるべき姿に求められるSDGs

2020年に世界中に拡大したCOVID-19によって、私たちはこれまで当たり前のように感じていた日常生活が、いかに脆弱なものであるのかを思い知りました。そして、多くの人々、企業、政府・自治体は、改めて生活、産業、社会のあるべき姿について問い直しています。持続可能性は、こうした問いかけを考える上でこれまで以上に重要な価値観になってきました。

2015年、国際連合は、先進国を含む国際社会全体が2030年までの環境・経済・社会で実現すべきことを「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」としてまとめました。そのSDGsの根底にあるのが、まさに持続可能性という価値観です。SDGsでは、17のゴールと169のターゲットが具体的に挙げられています。

近年、多くの企業がSDGsに積極的に取り組むようになりました。それは、「企業イメージの向上」「社会課題への対応」「生存戦略の実践」「新たな事業機会の創出」など、SDGsへの取り組みの先に多くの可能性が広がるからです。

利益だけではなく、活力ある従業員の働き方や社会に貢献し続けるため、企業は社会的責任(Corporate Social Responsibility:CSR)を全うする必要があります。そして、企業がCSRの実践策を考える際、SDGsで具体的に示された目標は極めて明確な指針となります。加えて、企業の取引ではSDGsへの積極的な取り組みが求められ、投資家も投資条件としてSDGsへの取り組みも重視するようになっています。SDGsへの取り組みは、その企業が短絡的で独りよがりな経営をしていない証であり、長期にわたって安定的に成長する可能性の高さを見極める判断材料になるからです。

デジタル技術を活用して持続可能なビジネスを創出

SDGsに沿った持続可能性の実現に向けて、AI・IoT、5Gなど最先端のデジタル技術を活用して社会課題の解決に挑む企業例が数多く出てきています。2019年11月にNECが開催した「C&Cユーザーフォーラム&iEXPO2019」では、「リテール現場」「製造現場」「ロジスティクス現場」での実践例が紹介されました。

まずは、リテール現場の労働力不足に、生体認証やAI、IoTを活用した省人型店舗で挑んだ例です。企業を取り巻く大きな社会課題の一つに、労働力不足があります。筆者はOmni7の開発を担当していましたが、株式会社セブン-イレブン・ジャパンとNECは、2018年12月に「少人数」で「快適・便利」な運営が可能なコンビニの省人型店舗をオープンしました。顔認証でのスムーズなウォークスルー入店や、顔認証のセルフレジでのすばやい決済など、新しい買い物体験を実現しています。店舗運営の面でも、冷蔵庫などの稼働状況をセンサーでリアルタイムに収集してリモート管理する仕組みや、商品の発注量をAIが提案する「AI発注提案」が導入されています。

次は、製造現場の労働力不足や多品種変量生産への対応に向けて、スマートファクトリーを構築した事例です。製造業でも労働力不足や少子高齢化による技術伝承の難化が課題になっています。その解決策として注目が集まっているのが、AI、IoT、ロボット、5Gなどを活用した、スマートファクトリーの実現です。例えば、品質不良の要因を迅速に特定するためには、これまで経験豊富な熟練者の知見とスキルが欠かせませんでした。その熟練者が技術を伝承する後輩がいないまま退職してしまう現場が増えているのです。持続可能な製造現場に変えるため、AIによる属人的作業のシステム化が期待されています。

最後に、ロジスティクスプラットフォームを構築・利用することで食品ロスや労働力不足に挑んだ事例です。物流業界では、労働力不足や地域格差、食品ロス、エネルギーロスなど多くの社会課題を抱えています。NECは、食品メーカーや卸・物流・小売りの参画を仰いでロジスティクスプラットフォームを構築。食品メーカーの出荷実績に、卸の出荷情報や小売りのPOS情報を加味して、高精度の出荷予測を可能にすることで食品ロスを削減できるシステムの構築に取り組んでいます。

自動化した社会がモノやサービスを提供し続ける近未来

これらの実践例で示されているような、デジタルテクノロジーの活用による自動化は、ビジネスの持続可能性を高める手段としてますます広がることでしょう。

そして、自動化による持続可能性の向上を推し進めていった先は、どのような世界につながっているのでしょうか。早稲田大学大学院 経営管理研究科 教授の斉藤賢爾氏は「メタ・ネイチャー」と呼ぶ、新たな個人や企業の営みのあり方を提唱しています。

かつての人類は、狩猟採集社会で自然環境が生産したモノを享受して生活していました。メタ・ネイチャーとは、テクノロジーによる自動化が進み、社会環境と自然環境の区別がつかなくなっていく世界。自動化と分散化が進むことで、これまでは人間が自発的に行動して作り出していたモノやサービスが、システムによって自動的・自律的に生産されることだといいます。斉藤氏は、こうした環境が30年以内に実現される可能性があるとみています。

持続可能性には地球規模で中長期的に未来に備える

国連では、世界の人口は2050年には98億人にまで増加すると予測しています。資源消費よる温室効果ガスの排出量の増加、水、食料、エネルギーの需要も増加すると想定され、その状態が続くと2050年には「地球2つ分」の資源が必要になるといわれています。

また、NECは今後10年間に訪れる世界や社会の変化を、6つのメガトレンドとして整理しています。それは、「連鎖する資源・環境問題」「持続可能な都市の模索」「個の力の向上と価値観の変容」「パワーバランスの変動」「テクノロジーの指数関数的進化」「多様化する脅威と安全・安心のニーズ」です。これらは相互に影響を受け、連鎖しています。地球規模の大きな潮流を中長期的に把握し、様々なリスクや機会を察知して、未来に備えることが重要となります。

コロナ禍が変えた価値観や発想をSDGs達成の機会に

SDGsで取り組む問題には、これまでの価値観や発想では解決できないものも多く含まれています。しかし、様々な領域でテクノロジーの進化が急速に進み、ICTの分野ではAI・IoTなどのデジタル技術が注目されています。社会や経済、産業構造を急速に変革するデジタルトランスフォーメーションによって、SDGsを達成する範囲が広がっています。また、問題自体を再定義して解決に導く思考法として、「スペキュラティブ・デザイン」が注目されています。人間は課題に対し、経験や常識が思考に偏りを与え、最適解を見失います。目前の問題だけを直視すると解決不能に見えても、視野を広げて問題を再定義すれば、簡単に解決できる場合があります。スペキュラティブ・デザインの思考法は、持続可能性を実現する道標になるといえます。

コロナ禍の中で従来の価値観や発想が一変しました。新たな生活様式や消費行動により、社会環境も大きく変わり始めています。この価値観や社会環境の変化は、SDGs達成に向けた大きな機会と捉えるべきではないでしょうか。まさに、視野を広げて問題を再定義するスペキュラティブ・デザインのアプローチから解決のヒントを導き、さらにはデジタル技術をフル活用することで、持続可能な社会へ一歩ずつ歩みを進めましょう。

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