時価総額で世界最大の暗号資産(仮想通貨)であるビットコインの価格は、数カ月に及ぶ低迷を脱し、8月23日に5万ドルを回復した。しかし、暗号化テクノロジーの専門家たちは、量子コンピュータの進歩により、早ければ2026年にはビットコインを支える暗号化技術が、「根本的に損なわれる可能性がある」と警告している。
英国に本拠を置く量子暗号化テクノロジー企業「Arqit(アーキット)」の創業者のデビッド・ウィリアムズは、「2026年頃に広範囲な実用化が進む見通しの量子コンピュータは、そのパワーによって、どんなブロックチェーンのセキュリティシステムも簡単に突破してしまうだろう」と述べている。
Arqitは、5月にSPAC(特別買収目的会社)との合併を発表し、9月のニューヨーク市場への上場に備えている。同社は、住友商事とThe Heritage Group、ヴァージン・オービットの3社から資金調達を実施した。
量子コンピュータとは、従来のコンピューターの「ビット」を量子ビット(Qubit)に置き換え、圧倒的スピードの計算を可能にするもので、1990年代から開発が進められてきた。現在、世界中の大学の研究者が実用的な量子コンピュータの開発に取り組んでおり、最近ではグーグルとオーストラリアのニューサウスウェールズ大学の研究者たちが、画期的な成果を上げて話題になっている。
ウィリアムズは、イーサリアムの共同創設者でカルダノの生みの親であるチャールズ・ホスキンソンが以前から主張する問題点を指摘し、ブロックチェーンの開発者たちに量子暗号鍵と呼ばれるテクノロジーを採用するよう呼びかけている。
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「ブロックチェーンは、迫り来る量子コンピュータ時代に対応しなければ事実上、根本的な欠陥を抱えることになる」と彼は述べている。
ケンブリッジ・クォンタム・コンピューティングで量子サイバーセキュリティを担当するダンカン・ジョーンズも、「量子コンピュータが脅威となる前に対処しなければ、その影響は甚大だ。攻撃者は不正な取引を行い、コインを盗むだけでなく、ブロックチェーンの運用を混乱させる可能性がある」と警告している。
2008年の金融危機レベルの打撃
今月初め、ケンブリッジ・クォンタム・コンピューティングは、米州開発銀行(IDB)とメキシコのモンテレイ工科大学とともに、量子コンピュータがもたらすブロックチェーンネットワークへの4つの潜在的な脅威を特定し、ポスト量子暗号(post-quantum cryptography)のレイヤーを用いてその保護を行った。
ジョーンズは、グーグルのサンダー・ピチャイCEOが、暗号化がわずか5年から10年で破られる可能性があると予測していることを指摘し、「分散型ネットワークは、すぐに対処を始めることが重要だ」と述べている。
最近では、中国が量子コンピュータ分野で先行していることが報じられており、ウィリアムズは、このことが2008年の金融危機と同じレベルの打撃を、世界の伝統的金融市場と暗号通貨市場の双方にもたらす可能性があると述べている。
「量子コンピュータがもたらす危機は、最初は密かに進行し、暗号化が突破されたというニュースが徐々に広まっていくだろう。その後、2008年の金融危機と同様な、システムへの信頼の崩壊が起こるだろう」と、ウィリアムズは指摘した。
現在、世界に存在する暗号通貨の種類は1万1000以上に達しており、ビットコインをはじめとする主要な暗号通貨間の競争が加熱しているが、来るべき量子コンピュータ革命に対応する防御策を追加することは非常に有益だ。
「仮に、あるブロックチェーン企業が、量子コンピュータ時代にも耐えうる強固なセキュリティを証明できれば、その企業は優位なポジションに立つことができる」と、ウィリアムズは話した。