
多くの部品や製品を生産している現場において、生産効率の向上を課題に思っている方も多いのではないでしょうか。そのような課題を解決出来る方法として知られているのが、かつてトヨタ自動車で提唱された「ジャストインタイム生産方式」です。
しかし、現場によってはジャストインタイム生産方式を取り入れても効果が見られないどころか、一歩間違えれば在庫の欠品によって業務がストップしてしまうリスクが生じます。
そこで今回は、ジャストインタイム生産方式の基礎知識を押さえながら、メリットや成立させるための前提条件を解説します。
ジャストインタイム生産方式とは?

ジャストインタイム生産方式(JIT生産方式とも)とは、「必要なときに、必要なものを、必要なだけ生産または調達する方法」のことです。生産現場の「ムダ・ムラ・ムリ」を徹底的になくし、良いものだけを効率良く造る。お客様にご注文いただいたクルマを、より早くお届けするために、次の内容により最も短い時間で効率的に造ります。
- お客様からクルマの注文を受けたら、なるべく早く自動車生産ラインの先頭に生産指示を出す。
- 組立ラインは、どんな注文がきても造れるように、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておく。
- 組立ラインは、使用した部品を使用した分だけ、その部品を造る工程(前工程)に引き取りに行く。
- 前工程では、全ての種類の部品を少しずつ取りそろえておき、後工程に引取られた分だけ生産する。
引用:トヨタ自動車ホームページ
上記の通り、もともとJIT生産方式はトヨタ自動車が導入したものでした。それまで製造業では限られたものを大量に生産する「大量生産方式」が広く取り入れられていましたが、大量生産方式には、「生産過剰に陥る」という欠点もあったのです。
製品を生産するうえで、「作り過ぎによる無駄」、「運搬の無駄」、「在庫の無駄」、「不良品を作ってしまう無駄」をはじめとする無駄は少なからず生じます。しかし、必要な分だけ生産を行うJIT生産方式では、在庫を持たないことでスペース改善とコスト低減、さらに作業効率の向上を実現します。
後にトヨタ自動車は、ジャストインタイム生産方式をもとに独自の生産管理方法である「かんばん方式」という生産方式を考案しますが、これはアメリカのスーパーマーケットから着想を得たことから、「スーパーマーケット方式」とも呼ばれています。
かんばん方式は、「必要な在庫を必要な分だけ用意、売れた分だけ、補充する店舗側」を前工程、「必要な商品を、必要な分だけ買い求める顧客側」を後工程に見立て、運用する方式です。「後工程が消費した分だけ、前工程に生産や加工を求める」ことで、作業量や在庫過多を削減し、現場の負担が軽くなります。
製造現場におけるさまざまな生産方式

ジャストインタイム生産方式以外にも、製造業ではさまざまな生産方式によって製品が作られてきました。それぞれの方法とメリット、デメリットに注目してみましょう。
販売機会を逃さない「見込生産方式」
見込生産方式とは、需要や販売量の見込をもとに、生産計画を立てて生産を行う方式のことです。あらかじめ製品を生産しているため、顧客を待たせないほか、実際の商品を確認させられる点が大きなメリットといえます。その反面、生産量はあくまでも販売見込みで決めるため、場合によっては多くの在庫を抱えてしまうのがデメリットです。
在庫を抱えない「受注生産方式」
前もって生産する見込生産に対して、受注生産方式は、注文を受け付けてから生産する方式です。注文を受けた時点で顧客に合った製品仕様を決め、設計、生産を行います。注文を受けるまでは生産が始まらないため、在庫を抱えず、製品を売り損なうことはありません。ただ、リードタイムに多くの時間が取られるため、販売機会の損失が起こる可能性も大きくなります。
大量生産に適した「ライン生産方式」
従来の大量生産型のものづくりでは、製品をコンベアで移動させながら各工程で部品の取り付けや加工を行うライン生産方式が導入されていました。ライン生産方式は同じ製品を大量に生産することには適していますが、生産品目の変更など柔軟な対応が困難です。
人件費や設備費をコストダウンできる「セル生産方式」
ライン生産方式と対照的な生産方式が、製品を1人、もしくは少人数のチームで生産する「セル生産方式」です。作業員一人ひとりの担当する業務領域が広いため、ライン生産方式と比べ人件費のスリム化や設備にかけるコストダウンを実現できるメリットがあります。しかし、作業員1人あたりの作業内容が多くなることや高い技術力が必要となり、育成コストがかかるデメリットもあります。
ジャストインタイム生産方式のメリット

ジャストインタイム生産方式を実現した企業の多くは、無駄を排除したことにより大きな効果を得られています。そのメリットをあらためてご紹介します。
メリット1.在庫のミニマム化
必要以上の在庫を持たないジャストインタイム生産方式では、在庫管理をするうえで生じる人件費や場所を確保する手間が最小化できます。しかし、部品を含め、在庫を持たない状況は、同時に在庫欠品に陥るリスクをはらんでいます。
たとえば、大雪や豪雨といった自然災害や、事故によって輸送がストップした場合、材料が現場に納入されず製品の生産は始まりません。納期までに製品をお客様のもとに届けられなければ、販売機会だけでなく信頼を失ってしまうことでしょう。一見、在庫を保持しないことからジャストインタイム生産方式はメリットをもたらすように思えるかもしれませんが、状況によっては大きな損失につながることも念頭に入れておく必要があります。
メリット2.リードタイムの短縮
多くの企業では、商品在庫を抱えることで見かけ上のリードタイム短縮を図っていますが、欠品を恐れるあまり過剰に生産することで管理コストや在庫ロスが発生してしまいます。ジャストインタイム生産方式を実現すると、製造や輸送の無駄を削減できるため、製造開始から顧客の手元に届くまでのリードタイムを短縮できます。
また、リードタイム短縮には、現場の見える化や不良品の減少への取り組みが必要になるため、副次的に現場の課題解決にも繋がるでしょう。
参考記事:リードタイム短縮が利益向上のカギ。納期短縮を実現するポイント
ジャストインタイム生産方式を成立させるためのポイント
ジャストインタイム生産方式を実現するためには、いくつかのポイントを押さえる必要があります。具体的にどのようなポイントを押さえればよいのでしょうか。
ポイント1.商品の需要が平準化できるものであるか
トヨタ自動車がジャストインタイム生産方式を導入、成功につなげた要因のひとつは、生産する自動車の需要が平準化できたことにあります。
自動車は季節や時期に変動されず、常に需要が生まれている製品です。しかし、扇風機やストーブは季節によって需要が左右されるため、1年を通して生産すると、どこかで在庫を抱えることになります。これらの製品は必要なときに必要な分を生産し、現場では在庫を保持しないJIT生産方式と相性が悪いといえるでしょう。
ポイント2.設備や部品供給の安定化はできているか
設備が動かない、部品に不備があるといったトラブルが発生すれば、生産が止まってしまいます。そのため、現場では設備の点検、納入する部品に不良品がないかを常にチェックしておかなければいけません。
ポイント3.作業員が多能工化できているか
より少ない人員で生産を回していくためには、作業員1人で複数の工程を担当できる多能工であることが大前提となります。多能工を育成するには設備を動かす知識や経験、スキルを身につけるまでに時間がかかりますが、人員が増えれば増えるほどより多くの連携も求められます。
また、一部の工程を担当する人が集中して欠勤した場合、それだけで生産がストップしてしまうこともあるかもしれません。だからこそ、少人数でも複数の工程を担当できる多能工によってどのような状況でもカバーし合えるようにしておくことが重要なのです。
ジャストインタイム生産方式の実現には現場の体制構築が必須
無駄を省くことを重要視するジャストインタイム生産方式は、運用方法を誤ってしまえば在庫を切らしてしまうだけでなく、現場の生産力が落ちてしまう可能性を含んでいます。そのため、メリットだけに目を向けるのではなく、「本当にうちの現場でもできることなのか」、「導入するうえでの課題は何か」を考えながら、体制を整える必要があります。
まずは自分の現場に適しているのかを見極めるところから始めてみてはいかがでしょうか。多様な製造現場で最適化に取り組むSIer(システムインテグレータ)もいるため、自社工場が直面している課題は何か、ジャストインタイム生産方式に適しているのかなど、SIerに相談してみるのも良いかもしれません。
関連記事:ロボットシステムインテグレータとは?導入プロセスや補助金を紹介

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