
ITコンサルティングの中でも、案件数が多いSAP関連プロジェクト。当サイトにおいても、新規導入やバージョンアップなどSAP関連案件の依頼はコンスタントに来ています。ERP(Enterprise Resources Planning:統合基幹業務システム)の中でも世界シェアの高いSAP。日本国内のシェアも高く、SAPコンサルタントのニーズは高い状況が続いています。
すでにSAPに関わった経験のある人はもちろん、業務系システムコンサルティング経験がある方は、専門性を高めた「SAPコンサルタント」というキャリアパスもあります。とはいえSAPのシェア動向やSAP関連プロジェクト案件が今後増えていくかどうか、気になるところではないでしょうか。特に現在SAPでは、いわゆる「2025年問題」が話題となっています。そこでSAPコンサルタントの将来性やニーズ、2025年問題への対応についてまとめました!
目次
■SAPコンサルタントの業務内容・役割
(1)SAPとは?
(2)SAPコンサルタントの業務
■SAPコンサルタントに必要なスキル・資格
(1)SAPコンサルタントに必要な経験・スキルとは?
(2)SAPコンサルタントして活躍するには、認定コンサルタント資格は必須?
(3)SAPコンサルタントとして独立できる?
■SAPコンサルタントにも影響の大きい「2025年問題」とは?
■導入事例に見る、SAPコンサルタントのやりがいとは
(1)SAP HANA導入で基幹システムを刷新、アドオンを98%削減したカルビーの事例
(2)海外展開を目指し、SAPのクラウド型システムを導入したベンチャー企業ユーグレナの事例
■まとめ
SAPコンサルタントの業務内容・役割

(1)SAPとは?
基幹業務を総合管理するシステムERPパッケージを提供しているSAP社。企業の経営資源を有効活用して経営関係を効率化するために、基幹業務を部門ごとではなく総合的に管理するためのソフトウェアパッケージを提供しています。SAP社はマイクロソフトやオラクルと並び、世界で高いシェアを誇っている企業のひとつです。ドイツの企業であるSAP社は、1992年に日本法人を設立。日本においても大企業を中心に、すでに2,000社以上のSAP導入企業があると言われています。
最近では2018年7月に吉野家ホールディングスがSAPクラウドシステムの導入を発表しました。牛丼チェーン吉野家のほか、傘下のはなまるうどんや京樽といったグループ企業の基幹業務システムをSAPに統合する予定だそうです。パブリッククラウドや機械学習などの新規技術にも対応しているSAPを導入することで、グループ全体の管理システムを刷新するのが狙い。こうした大規模な経営改善や効率化を図る際に、SAPが選ばれるケースが多いようです。
◆SAPについては別コラムで詳しく解説しています。
「クラウド化が加速するERP市場で進化するSAP ERP」
(2)SAPコンサルタントの業務
SAPコンサルタントのメインとなる業務が、SAPの新規導入支援。会計や人事、在庫管理や販売管理など幅広く企業の経営システムに関わるSAPの場合、コンサルティング範囲も単なるITシステム開発ではなく、企業の経営全般に関わります。
<システム導入前>
企業の経営状況を把握した上で、現状の課題を把握。ITシステム導入とあわせて業務改革(業務改善)・経営改善に関する提案を行ないます。最近では働き方改革の一環として、業務効率化を目指すケースも増えています。
<システム導入>
プロジェクトマネージャーとして、開発~導入までを統括して管理。稼働後のアフターフォローを請け負うケースもあります。
SAPを導入する企業が増える中、導入支援だけではなく、導入後のSAPバージョンアップ対応や追加システム開発、他ITシステムとの連携などのコンサルティングを依頼されるケースもあります。またSAPの新規導入セミナーなども行なわれており、セミナーを利用して新たな知見を身につけているコンサルタントも少なくないようです。最近SAPが力を入れているのがAI技術。社内のさまざまな情報をデジタル化して活用できるのがERPの強みですが、AIの機械学習機能を使うことでさらに効率化できるアプリケーションも提供しています。こうしたアプリケーションをプロジェクトに組み込むケースも今後増加すると言えそうです。
SAPコンサルタントに必要なスキル・資格

(1)SAPコンサルタントに必要な経験・スキルとは?
SAPコンサルタントは、SAP製品に関する知識のほか、クライアントが属する業界の知識が必要なのは言うまでもありません。ただしそれだけではSAPコンサルタントして活躍できません。より上流の管理者として、経営全般の課題解決スキルと仕事量が求められるのがSAPコンサルタント。クライアントの要望を分析し、客観的なデータを使った改善提案力が必要です。
またSAPの強みのひとつが、グローバル対応な点です。最近では日本企業が海外拠点を設ける際に、国内で構築したSAPシステムを海外展開する(ロールアウト)ケースも増えています。そこで海外展開における、SAP導入コンサルティングを手掛けることもあります。こうしたケースでは英語などの語学力はもちろん必要ですが、海外展開をする上で地域に関する知識や経験もSAPコンサルタントに求められます。
SAPコンサルタントになるためには、一般的にはコンサルティングファームでSAP導入案件の経験を重ねるというのが主流。またERP開発経験のあるエンジニアがコンサルタントへキャリアアップするケースもあります(ただしコンサルタントとして、開発経験が必須というわけではありません)。
最近ではエンジニアやコンサルタントという立場ではなく、導入企業のメンバーとしてSAPなどのERPシステムを導入・運用した経験がある人がコンサルタントに転身するというキャリアパスも出てきています。SAPモジュールコンサルタントとして、FI/CO/EC-CS/SD/MM/PPなどのモジュールの中から、強みを活かしてコンサルティング業務に従事している方も弊社サービス、FreeConsultant.jpのご登録プロフェッショナル人材の方でいらっしゃいます。
なおクライアントがSAP以外の製品も比較検討しているケースも当然あります。どの段階からコンサルティングを依頼されるかにもよりますが、他社のERP製品に関する知識や経験が豊富であれば、ITシステム導入前の提案フェーズから関われる可能性も。こうした人材を目指すためには、自主的にさまざまな勉強会に参加し、常に情報をアップデートしておく必要があります。
(2)SAPコンサルタントして活躍するには、認定コンサルタント資格は必須?
SAP社では認定コンサルタント資格を設けていますが、製品・バージョンごとに細かく分類されているのが特徴です。SAP公式サイトの「パートナー別SAP認定コンサルタント資格取得数」によれば、2019年9月時点で資格取得者は約13,300人となっています。(※1)
※1出典:https://www.sap.com/japan/documents/2019/11/a07a05f1-707d-0010-87a3-c30de2ffd8ff.html
なお、認定資格を持たなくとも、コンサルティング業務そのものを行なうことは可能です。とはいえコンサルタントの求人募集時に、「SAP認定コンサルタント資格所有者のみ応募できる」という案件も中にはあります。また将来コンサルタントとして転職したり起業・独立したりすることを考えれば、資格は持っておくべきでしょう。なお認定コンサルタント資格を持っていると、名刺に資格名称を記載することが可能です。この資格を取得する難易度は高めと言われており、認定コンサルタント資格の価値は高いと言えます。
なお資格は一旦取得すれば更新の必要はありません。ただしバージョンや製品ごとに資格を取得する必要があります(実施中の認定資格試験一覧には、なんと100種類以上リストアップされています)。また試験を受けるには実際の試験会場で受けるほか、Web経由で試験を受ける方法も提供されています。
SAP認定コンサルタント資格を取得するには、仕事として実務経験を積むほか、SAP社が提供している有償トレーニングの研修を受講するという手段もあります。ただしトレーニングの研修を受講するには、およそ100万円というコストがかかります。(実際にトレーニングを受ける場合は、企業がサポートするケースがほとんどのようです)
(3)SAPコンサルタントとして独立できる?
SAP認定コンサルタント資格はスキル証明としての評価も高く、資格を生かしてコンサルティングファームから独立し、フリーランスとして活躍する人も。フリーランスになることで、自分がやりたい案件に関われるメリットや収入アップにつながるメリットもあります。なおフリーランスを求人募集しているSAPプロジェクトの場合、報酬は月額およそ100万~150万円というケースが多くなっています(※案件によって報酬は変動します)。
◆SAP案件はこちら:https://freeconsultant.jp/project_sub?o%5B%5D=15_sap
SAPコンサルタントの将来性

SAPコンサルタントの将来性を考える上で、気になるのがSAPのシェアではないでしょうか。2016年のERP世界シェアのデータによればSAPは約7%となっており、オラクルやマイクロソフトを抑えトップの座についています。SAPのERP製品関連収益は、56億ドルを達成したそうです。
海外だけではなく、SAPは日本でも高いシェアを誇っています。調査会社のノークリサーチが発表した「2016年中堅・中小企業におけるERP活用の実態と今後のニーズに関する調査」によれば、SAPのシェアは富士通に次いで2位となっています(導入済みの製品/サービスのうち最も主要なERPという問いに対して12.2%)。SAPは導入コストの高さから大企業向けというイメージが一般的ですが、国内の中小企業に対してもシェアがあることがわかります。(※2)
※2出典:https://japan.zdnet.com/release/30209795/
実際にSAPでは、大企業だけではなく最近中小企業向けの展開にも力を入れています。Tech Targetジャパンでは、以下のようにSAPが中小企業向けの営業力を強化する取り組みを報じています。
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しかし2017年に入り、国内法人のSAPジャパンが中堅・中小企業向け市場における新たなビジネス戦略を打ち出した。SAPジャパンは国内の中堅・中小企業を、年商規模で「250億円以下」と「250億~1000億円以下」の2つのレイヤーで定義して、それぞれに特化した組織を新設した。それとともに、これまで直販を主としてきた販売モデルにも大幅に手を入れて、特に中堅・中小企業向けにはパートナービジネスの強化に取り組んでいる。
引用元:http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/1706/28/news03.html
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大企業の新規導入がある程度進んできた現在では、SAPが新たなマーケットとして中小企業をとらえていることがわかります。また中小企業への展開は、ERPのクラウド化も影響していると言えそうです。従来のERPパッケージ導入と言えば、高額な初期投資がかかるという特徴がありました。一方クラウド化に伴ってERPの初期投資が抑えられるようになったため、中小企業でも導入しやすい状況になりつつあります。
つまりSAPコンサルタントにとっては従来の大企業向け新規導入支援というプロジェクトに加えて、今後は中小企業向けのコンサルティングを担うケースが増えることが予想されます。さらにSAPコンサルタントのニーズが高まるとも言えるのではないでしょうか。
なお日本のERP市場自体を見ると成長率はほぼ横ばいですが、ここ数年は右肩上がりの状況が続いています。矢野経済研究所が実施した国内ERP市場に関する調査によると、2017年ERPパッケージライセンス市場は1,097億9,000万円に上り、前年比0.8%増となっています。(※3)
※3出典:https://www.yanoict.com/summary/show/id/517
国内ERP市場は2020年に1,212億円になると予測されていて、今後もERP全体で見ると、コンサルティング案件は増加傾向になることが予想されます。
SAPコンサルタントにも影響の大きい「2025年問題」とは?

SAPの今後のシェアに影響が大きいと言われるのが、「2025年問題」です。これは現状多くの企業に導入されている「SAP ERP」のサポートが、数年後の2025年をもって終了するというもの。つまり、現在この「SAP ERP」導入している企業はサポートが終了する2025年までに新たにSAPが開発した「SAP S/4HANA」に移行する(もしくは別のERPに乗り換える)という必要があります(ただし2025年を過ぎるとすぐに従来の製品が使えなくなるというわけではないようです)。
新しいSAPに移行すればOKなのですが、ここで大きな問題となっているが同じSAPの製品でありながら、「SAP S/4HANA」は従来の製品とは大幅にシステムが異なるという点。中には「SAP S/4HANA」はSAP ERPの新バージョンではなく機能を継承した別製品、と言い切るメディアもあるほどです。つまり「SAP S/4HANA」に移行する場合でも、単なるバージョンアップとはいきません。新規導入に近い形で、工数やコストをかけたプロジェクトが必要となるわけです。そのためSAPではなく、他社のERPへ乗り換えるという選択をとる企業も増える可能性があります。
SAPの2025年問題は、SAPコンサルタントにとっても大きな影響を及ぼします。ひとつは短期的に見れば2025年までは移行プロジェクトが増加し、コンサルタントのニーズが高まるということ。実際にSAPの移行支援サービスを立ち上げるところも出てきました。SAPコンサルタントにとっては大きなビジネスチャンスとも考えられますが、やはり注意すべき点もあります。2025年が近づくにつれて案件が集中してしまったり、期限までに移行するためタイトな日程でプロジェクトを進めなければならなかったり・・・といった状況も想定されます。
また、他社ERPへの乗り換えが進み、SAPの国内シェアが下がるかもしれないという懸念もあります。現在では日本の企業向けに国産ERPも増えているため、SAPにとっては競合製品が増えてきている状況と言えます。すぐに大幅なシェア変動があるとは考えにくいものの、今回の2025年問題をきっかけに長期的にSAP導入支援案件が減少していくという可能性も視野に入れていく必要があります。
一方でSAPは、「SAP S/4HANA」の導入企業数が増えていることを公式サイトでアピール。2018年9月には「SAP S/4HANA」のユーザー数は前年同期比で41%増加、600社近くの新規契約があり、そのうち約4割が新規ユーザーということを発表しています(※4)。また、リアルタイムのクラウドプラットフォームの SAP IBP(Integrated Business Planning)でサプライチェーンの管理や計画に対応している企業も増えてきています。
※4出典:https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/column/18/00162/021800006/
導入事例に見る、SAPコンサルタントのやりがいとは

SAPはすでに日本国内で多くの企業に導入されています。コンサルティング会社が公開している事例の中から、大企業の事例と中小企業の事例をそれぞれご紹介しましょう。
(1)SAP HANA導入で基幹システムを刷新、アドオンを98%削減したカルビーの事例
長年大規模な基幹システムを使い続けている大企業にありがちなのが、業務やシステムの複雑化。菓子メーカーのカルビーでも、こうした悩みを抱えていたそうです。カルビーでは本社のほか国内にある工場など多くの拠点を持っており、従来SAPベースの基幹システムを利用していたものの標準化できていないというのが大きな課題でした。
そこで基幹システムの刷新を検討し、2016年にコンサルティング会社アクセンチュアが中心になり、SAP HANA導入プロジェクトを立ち上げました。カルビーが使っていた旧基幹システムでは、拠点ごとに異なる業務も多く多数のアドオンがある状況だったそうです。これでは業務の効率化につながらないだけではなく、メンテナンスコストもかさんでしまいます。そこで標準化・効率化を目指しSAP HANAを導入。業務の標準化とシンプル化を目指した結果、旧システムにあったアドオンの98%削減を実現しました。SAPコンサルタントにとっては、こうした多くの拠点がある企業の大規模プロジェクトに関われるというのもメリットのひとつと言えます。
参考:https://www.accenture.com/jp-ja/success-accenture-calbee-sap-hana
(2)海外展開を目指し、SAPのクラウド型システムを導入したベンチャー企業ユーグレナの事例
一方でベンチャー企業や中小企業に対しては、SAPのクラウド型ERP導入を進めるプロジェクトも増えています。例えば日立システムズでは、環境問題に取り組む「株式会社ユーグレナ」のSAP導入コンサルティング事例を自社ホームページで紹介しています。東京大学発のバイオベンチャー企業であるユーグレナ社は2005年に設立後、2012年に東京証券取引所市場マザーズに上場しました。
IPO後は国内拠点の増加や海外展開を計画しており、クラウド基盤の基幹システム導入を検討。その結果「SAP Business One Cloud」の導入を決定しました。決め手はクラウドベースであることとあわせて、SAPが海外実績が豊富でローカライズしやすいという点だったそうです。なおユーグレナ社は「SAP Business One Cloud」を日本で導入した初めての企業です。海外に強いSAPだからこそ、コンサルタントして海外展開を狙う企業の成長をサポートできるというのもメリットかもしれません。
参考:https://www.hitachi-systems.com/ind/sap/case/euglena/index.html
まとめ
ERPの中でも、海外シェアとあわせて日本国内でも導入企業の多いSAP。導入支援プロジェクトを統括するSAPコンサルタントのニーズは高い状況が続いています。SAPのプロジェクトは経営課題を解決するという目的で進めるケースも多く、SAPコンサルタントには企業の業務プロセスの見直しをはじめ、経営改善や業務改革(業務改善)に関わる機会も多いのが特徴。最近ではAIを搭載したアプリケーションにも力を入れています。単なるシステムに関する知識だけではなく、ビジネスの上流に関する幅広い知識と経験が求められます。
SAPには製品・バージョンごとに認定コンサルティング資格があり、業界の評価も高いのが特徴。つまり資格を持つことで転職や独立につながりやすくなります。実際にフリーランスで活躍するSAPコンサルタントも登場しており、さまざまなキャリアパスがあります。SAPは従来大企業向けシステムがメインでしたが、クラウド化に伴いベンチャー企業をはじめ中小企業向けコンサルティング案件も増加中。カルビーやユーグレナなどの国内導入事例を見ると、それぞれの案件でSAPコンサルタントとしてのやりがいがあることがわかります。ただし旧バージョンのサポートが2025年で終了するといういわゆる「2025年問題」が取り沙汰されており、将来的にはSAPのシェアや状況が変化する可能性も。今後SAPコンサルタントを目指す際には、SAPの動向もウォッチしていきましょう!