デジタルトランスフォーメーションを
実現するフレームワーク
「SAP Leonardo」
「SAP Leonardo」は、デザインシンキングの方法論とSAPの長年の業種ごとのソリューションで培った知見をあわせ、顧客のイノベーション支援のために提供するサービスです。SAP Leonardは単なるソリューションではなく、ソリューションを含むイノベーションを生むための一連のプロセスを含むトータルサービスであると言われています。
すなわち、「SAP Leonardo」は、SAP社によるデジタル戦略実現のためのトータルサービスであり、同社が提供するIoT関連ソフトウェア製品群やテクノロジー、方法論の総称です。SAP社では、「SAP Leonardoは、顧客のビジネスの”あるべき将来の姿”に向け、顧客とともにイノベーションを推進していくための活動全体のことを指す」と位置付けています。
2017年5月に発表され、同年10月に日本で本格展開が開始、すでに、700以上で構成される製品の導入の支援が進んでいます。「レオナルド・ダ・ヴィンチ」の名を冠した「SAP Leonardo」は、企業がスピーディーにデジタル変革を実現し、企業がSAP社のコンセプトである「インテリジェントエンタープライズ」となるための力となります。
SAP社では、「SAP Leonardo」をビジネスに直結している領域のアプリケーション構築「SoE(System of Engagement)」を支援する製品群に位置付けています。同社の業務アプリケーション製品「S/4HANA」と同様に、SAPのPaaS(Platform as a Service)である「SAP Cloud Platform」で動作します。「SAP Cloud Platform」上では、IoT、マシンラーニング、ビッグデータ、アナリティクス、ブロックチェーン、データインテリジェンスなどの技術を統合・提供します。また、デザインシンキングの方法論やSAPの専門知識を提供することで、新たな機能やビジネスモデルの速やかな導入を支援し、デジタルトランスフォーメーションが実現しています。
SAP Leonardoのキーコンセプトの1つである「デザインシンキング」
昨今、イノベーションのために「デザインシンキング」の手法を取り入れる日本企業が増えており、いまやデザインシンキングという言葉は一種のバズワードのようになってきています。しかし、その多くが、アイデア出しだけで終わっているのが実態でした。SAP社では、長年にわたりデザインシンキングの手法を取り入れており、その経験を活かし、アイデア出しだけで終わらせず、アイデアを実行に移して失敗と改善に取り組むための共創イノベーションを加速化し、顧客企業が真のインテリジェントエンタープライズとして成功できるよう取り組んできています。またそれを支援する場として、全世界で「SAP Leonardo Experience Center」を展開しており、2019年8月には日本でもSAP Leonardo Experience Center Tokyoをオープンしています。こうしたセンターをフル活用し、企業が先進テクノロジーを使ってイノベーションを意図的に起こすための支援を行うのが、「SAP Leonardo」です。イノベーションを意図的に起こすための唯一絶対の方法論はありませんが、SAPが顧客とともにイノベーションを起こしてきた経験の中から抽出したノウハウや進め方の方法論を、業種やテーマ別に分類してまとめたもの全体を「SAP Leonardo」と呼んでいます。そのため、「SAP Leonardo」は特定の製品やサービスだけを指すものではなく、各社が個別に悩むのではなく、意図的にイノベーションを実現するために効率よく正解にたどり着くことができるフレームワーク全体であるとも言えます。
SAP Leonardoを構成するコンポーネント
SAP Leonardoによるイノベーションを実現するために、インテリジェントテクノロジーのコンポーネントが提供されています。
- 機械学習
- モノのインターネット (IoT)
- アナリティクス
- ブロックチェーン
- データインテリジェンス
- ビッグデータ
これらのテクノロジーは、クラウドプラットフォームである「SAP Cloud Platform」で提供され、オープンな環境でアクセス可能です。
シナリオに応じ、必要なテクノロジーを組み合わせることで、ビジネストランスフォーメーションを実現し、デジタルコアとして位置づけられているERPのデータをさらに活用すして価値を上げることができるのです。
SAP Leonardoで注目すべき機械学習機能
つまり、SAP Leonardoは、まずは、SAPのポートフォリオにある革新的技術をデザインシンキングと組み合わせ、顧客が確実にイノベーションを起こせるようになるためのフレームワークです。革新的技術には機械学習、ビックデータ、IoT、ブロックチェーン、Data Hubなどがあり、これらのオーケストレーションによりイノベーションを支援します。この中で、特に注目すべき機能は、機械学習の「SAP Leonardo Machine Learning」です。マーケティング、販売・サービス、デザイン、運用・保全、インバウンドロジスティクス、アウトバウンドロジスティクス、財務、人事などのあらゆる業務に対して機械学習の適用を図り、バリューチェーン全体に潜む非生産的領域を変革していきます。そして、既存のSAPシステムとの統合と、統合による拡張が可能となります。さらに、このようなイノベーションを高速で顧客に提供することができます。
世界200社を超える顧客企業が採用
「SAP Leonardo」は、8週間以内の導入とカスタマイズが可能な「express edition」、プロトタイプの作成まで支援する「open innovation edition」、ソリューションまでを作成できる「enterprise edition」の3種類があり、すべてクラウドで提供されています。「SAP Leonardo」は、発表以来、世界で200社以上の顧客と「SAP Leonardo」についてのデザインシンキングプロセスを進めており、各社によるステージは異なりますが、大きな成果が出てきています。
SAPの新たなる戦略「SAP Leonardo」は
一体何を目指すのか?
レオナルド・ダ・ヴィンチは史上最も優れた画家としてだけでなく、科学者としてもその才能を発揮した。翼を羽ばたかせて飛ぶコウモリのような飛行機やネジから着想を得たヘリコプターなど、そのアイデアのほとんどは日の目を見なかったが、稀代のイノベーターの創造性は、現代を生きるわれわれをも驚かせる。そんなルネサンス期の天才の名を冠した「SAP Leonardo」が発表された。それは単なる製品ではなく、同社がERPによって業務のベストプラクティスを顧客に提供してきたのと同様、企業がスピーディーにデジタル変革を実現するための「テクノロジー」「ベストプラクティス」、そして「方法論」から構成されるトータルサービスだという。
[PR/ITmedia]
2017年10月24日、グランドハイアット東京にてSAP主催のイベント「SAP Leonardo Executive Summit」が開催された。既にSAPの海外年次イベントSAPPHIRE Nowでは発表されていたものの、その全貌についての情報を得る機会が少なかった「SAP Leonardo」。今回、企業のエグゼクティブを招いて開催された本イベントにおいて、初めて日本でその内容がお披露目された。
企業が意図的にイノベーションを起こすためのフレームワーク「SAP Leonardo」
基調講演の冒頭に登壇したSAPジャパン 代表取締役社長は、SAP Leonardoが生まれた経緯とその実態について次のように説明する。
「企業が先進テクノロジーを使ってイノベーションを意図的に起こすための支援を行うのが、SAP Leonardoの目的。イノベーションを意図的に起こすための唯一絶対の方法論はまだないが、これまでわれわれが、さまざまなお客様とともにイノベーションを起こしてきた経験の中から抽出したノウハウや進め方の方法論を、業種やテーマ別に分類してまとめたもの全体をSAP Leonardoと呼んでいる。従って、SAP Leonardoは特定の製品やサービスを指すものではなく、各社が個別に悩むのではなく、みんなで意図的にイノベーションを実現するために効率よく正解にたどり着くことができるフレームワークである」
企業がデジタル変革を成し遂げる上でキーとなるビッグデータやAI、IoTといったテクノロジー分野は、これまでSAPが主戦場としてきたERPをはじめとする業務アプリケーション分野とはジャンルが異なる。しかし福田氏は、「かつてSAPは業務システムの分野で、企業の業務の共通項を抽出し、それをパッケージ化することで顧客の業務革新を後押ししてきた。SAP Leonardoはこれと同じことを、イノベーティブな分野に適用しようというもの」と述べ、同社にとってSAP Leonardoはこれまでのビジネス戦略の延長線上にあるものだと強調した。
続いて、SAP Leonardo データ&アナリティクス担当が登壇し、SAP Leonardoの基本戦略について紹介した。
「SAP Leonardoは、顧客のビジネスの“あるべき将来の姿”に向け、顧客とともにイノベーションを推進していくための活動全体のことを指す。そのためにキーとなる製品やテクノロジー、手法などを業種・業態ごとに“業界別アクセラレータ”としてパッケージ化し、価格や提供期間(8週間)をあらかじめ明確化した上で提供する」
SAP Leonardoがカバーするテクノロジー分野は機械学習、ブロックチェーン、データインテリジェンス、ビッグデータ、IoT、アナリティクスと幅広く、これらをSAP Cloud PlatformやSAP HANA、SAP Data Hubといったプラットフォーム上から提供する。顧客がこれらの先進テクノロジーを生かして、短期間で組織的にイノベーションを実現できるよう、アクセラレータを有効活用したトータルサービスを提供する。
既にこの手法を使ってイノベーションを実現した企業の例も多く、例えば日本の製麺機製造大手企業では、SAP Cloud Platform上に構築したSAP LeonardoのIoTソリューションを活用し、顧客に提供した機器に取り付けたセンサーのデータを集計・分析して、製品品質の安定化のための最適な稼働設定を顧客に提案するビジネスモデルを確立したという。
SAPも参画する日本発のIoTオープンプラットフォーム「LANDLOG」
続いて、建機メーカーのコマツが、SAPジャパンとNTTドコモ、オプティムと共同出資して設立したジョイントベンチャー企業、ランドログにおける先進的なIoTの取り組みについて、代表取締役社長 井川甲作氏が紹介を行った。
コマツではもともと、同社製の建機にGNSSアンテナを取り付けて自動制御することで、作業の自動化と工事現場の生産性向上に取り組んできたが、建機による施工は作業全体のごく一部に過ぎず、生産性向上への貢献度に限界があった。そこで取り組んだのが、ドローンによる地形測定や3D点群データによる地形の3Dデータ化による「建設現場全体の見える化」だった。
この取り組みをさらに進めていく上では、コマツの建機以外にも、他社製のものも含めさまざまな機器からデータを収集する必要がある。そのために考案されたのが、IoTオープンプラットフォームである「LANDLOG」であり、ランドログはこのプラットフォームを使ったソリューションの開発のために設立された。
「LANDLOGは、建設現場のモノから吸い上げた多種多様なデータを加工して“コト化”し、APIを通じてアプリケーションに提供する。このAPIはオープン化されているため、さまざまなサードパーティによるアプリケーションが生まれることが期待されている。現在弊社では、このアプリケーションの開発や、現場で利用されるIoTのエッジソリューションの提供を行っている」(井川氏)
その一例として同氏は、ダンプトラックの運行を効率化するためのアプリケーション「TRUCK VISION」の紹介を行った。ダンプトラックや建機の位置情報をLANDLOG上で収集・管理し、それをアプリケーション上に表示することで効率的な運用方法を割り出したり、あるいはダンプトラックへの積み込み土量をクラウドで管理することも可能になっているという。
こうしたソリューションを検討・実現する上で鍵となっているのが、SAP Leonardoのキーコンセプトの1つである「Design Thinking(デザイン思考)」だ。ランドログ CDO 明石宗一郎氏は、「デザイン思考型アプローチで、LANDLOGを中心とした新たなエコシステムを構築したいと考えている。建機業界に限らず、ぜひ幅広い分野の企業に参画いただきたい」と述べ、今後のLANDLOGのパートナー展開をアピールした。
またランドログの運営に直接関与している、SAPジャパン バイスプレジデント チーフカスタマーオフィサー 大我猛氏は、デザイン思考のアプローチの重要性について次のように述べる。
「イノベーションの種や、解決すべき課題を発見するためのアプローチとして、デザイン思考は極めて有効だ。デザイン思考は、技術的な実現性とビジネス価値、さらには人のニーズの3つが重なり合うところにイノベーションの機会を見つけ出す手法。具体的には、課題解決の仮説と実行、評価のプロセスを短サイクルで回すことになる。そのためには、不完全でも走り出せて、かつ失敗を許容できる組織文化を育む必要があるだろう」
SAP Leonardoでイノベーションを成し遂げた企業の事例
SAP シニアバイスプレジデント 製品開発部門 IoT Moving Assets担当は、実際にSAP Leonardoを使ってイノベーションを達成した企業の事例を幾つか紹介した。
「主にIoTを使って既存ビジネスの効率化や、新規ビジネスを実現した企業の事例をプロダクト(製品)、アセット(資産)、フリート(車両)の3つを重点的に紹介するとともに、私自身が開発部門の人間なので、それぞれの事例の背後にある技術的な背景についても簡単に説明していきたい」(ブランド氏)
コネクテッドプロダクトの事例として、圧縮空気システムのメーカー、ケーザー・コンプレッサーでは、SAPの予知保全ソリューションを採用し、障害が発生する前にメンテナンスを行うことができるようになった。故障率の低下を実現し、顧客へのサービスレベルを向上させることに成功した。
また、産業用の遠心分離器メーカーであるGEA社では、機械からリアルタイムで取得したデータに基づき、適切なタイミングで保守を実施することで、機械の稼働率を向上させることに成功した。
コネクテッドアセットの事例として、世界最大の建機メーカーであるキャタピラー社では、自社製品の製造現場である工場から各種のデータを収集し、SAPのプラットフォームを通じて製造工程全体を可視化することで製造プロセスの最適化を図っている。またイタリアの鉄道会社トレニタリアでは、SAPの予知保全システムを使って車両の適切なメンテナンス時期を予測している。
コネクテッドフリートの事例として、商用車両や農業用車両、トラック、バスなどの車軸を供給しているBergischen Achsen社が設立したイノベーションラボでは、SAP Vehicle Insightsを基盤としたトレーラー・テレマティクス・ソリューションを利用し、エンド・ツー・エンドの最適化された輸送プロセスを促進している。
ボッシュはIoT分野でSAPと連携し、同社がもともと保有するセンサーシステムのノウハウを、SAPのソフトウェア技術と組み合わせることで、広範囲なIoTソリューションの実現を目指している。例えば、フォークリフトの各種センサーデータをSAP Vehicle Insightsで分析することにより、高度な地理空間分析や運転挙動分析、バッテリー監視などが実現したという。
われわれのミッションは「インテリジェントにヒト、モノ、そしてビジネスをつなぐ」です。これはテクノロジーだけでは解決できず、人にかかわるコラボレーション、アイデアの創出、インスパイアを実現する必要があります。SAPはグローバルな経験を生かしたデザイン思考の活用で、お客様の夢を発掘、実現し明るい未来を支援します。
SAP Cloud Platform Leonardo IoTとSAP Cloud Platform Internet of Things for the Cloud Foundry Environment
以下はSAP Cloud Platform Cloud FoundryのSAP Leonardo IoT(以下Leonardo IoT)とSAP Cloud Platform Internet of Things for the Cloud Foundry Environment(以下IoT Service)について取り上げたいと思います。
違い
さて、名称が似通っているこの2つのサービスですが、何が違うのでしょうか?
こちらの図を御覧ください。これはLeonardo IoTのアーキテクチャを示したものになります。
Leonardo IoT Archtecture
赤線囲み部分がLeonardo IoTを示し、青線囲み部分が IoT Serviceを示します。コンポーネントを繋ぐ線に注目してください。デバイス(及び他クラウド)から出ている線はIoT ServiceとEdge Serviceを介してLeonardo IoTに接続するようになっています。つまりLeonardo IoTがデバイス(センサー)あるいは他クラウドからデータを受け取る上ではIoT Serviceは必須のサービスになります。IoT Serviceはデータの受ける”口”として単体で使用することが可能ですが、Leonardo IoTはIoT ServiceあるいはEdge Serviceとの併用が必要となります。
SAP Internet of Things for the Cloud Foundry Environment
IoT ServiceはIoTデータから見た場合、デバイスから受信したデータを指定したエンドポイントに転送、あるいはデータベースに保存という役割を担います。指定したエンドポイントの一つがLeonardo IoTという位置づけです。
SAP Leonardo IoT
Leonardo IoTはIoT Service(及び他のクラウドサービス)から転送されてきたIoTデータの処理を行います。転送されてくるデータに対して
・データ保管
・ストリームデータ分析
・事前設定したルールに照らし、合致したらイベント発生(ストリーム及び蓄積したデータが対象)
・アクション
という動作を行います。アクションとして他アプリとの連携を行わせることが可能です。
役割の例
例えばタンクに入った燃料の量の常時監視を行い、減ってきたら自動的に発注、補充されたら受領処理を自動で行うというシステムに当てはめた場合、下記のような役割分担となります。
ビジネスロジック的な部分はLeonardo IoTが担います。もちろんこの部分はSAP Cloud Platformの機能と連携させることができます。Integration ServiceのiFlowと連携させることでSAP S/4HANAとの連携も容易になりますし、機械学習系の機能と連携させれば即発注せず最適なタイミングで発注を行う等が可能です。
他クラウドのIoTサービスとの接続
IoT Serviceはデバイスからのデータを受け付けるエンドポイントを用意するサービスですが、他のクラウドサービスが提供しているIoTサービスのデータを受け付けることができます。こちらは現在Amazon Web ServiceのAWS IoT Core、Microsoft AzureのAzure IoT Hubに対応しています。当然受け付けたデータをLeonardo IoTに転送することもできますので現在他のクラウドサービスで動作させているIoTサービスをSAP Leonardoの力でビジネスに繋げることができます。
データモデルの取り扱いの違い
双方ともに取り扱うデータをモデル化して扱いますが、デバイスからのデータを扱うIoT Serviceとそれだけではない他のクラウドサービスからのデータも取り扱うLeonardo IoTではそのモデリングの概念が異なります。これはDevice ModelとThing Modelと呼ばれ、IoT Serviceではデバイス単位でモデリングするDevice Model、Leonardo IoTではモノとしてモデリングするThing Modelを採用しています。
対象を車として車に取りつけたセンサーで考えてみます。Device Modelでは”車種毎”のモデリングであるのに対し、Thing Modelでは”車”というモノとしてモデリングし、その中で共通となる項目のグループと車種などによって異なる項目のグループを作成し、車種ごとに割り当てるという考え方です。簡単に図にすると以下になります。
分析対象となるデータの中には車種が違ったとしても共通のデータとして串刺しで分析したい項目というのが存在します。例えば車の稼働時間や移動距離などが該当するでしょうか?同型のエンジンを搭載している多数の車種があるのであればそのエンジンのデータも串刺しで見たいというニーズもあるかもしれません。IoTに限らずビッグデータではビジネス上のニーズは機種・デバイス等小さい単位ではなくもっと大きな単位で見たいという要件のほうが多いのではないでしょうか?
Device Modelの考え方ではこのニーズに対し、データベース上の作業で各車種のデータの連結を行いデータを作成・抽出することになるのですが、Thing Modelの考え方では項目グループ内の1つの項目として取り出すことができます。
IoT ServiceからLeonardo IoTの連携時はIoT Serviceで定義したDevice ModelとLeonardo IoTで定義したThing Modelで項目のマッピングを行います。
この2つの考え方はどちらが良いというものではありません。双方とも一長一短の部分があります。SAPではビジネス上でより使いやすくするために異なったモデルを採用しています。
まとめ
IoT Serviceでは”デバイスデータ”としてデバイス毎に管理しやすい形で扱うのに対し、Leonardo IoTでは”ビジネスデータ”としてビジネスに使える形、分析しやすい形でデータを扱うというのが特徴です。貯まったデータを分析するだけではIoTはもったいないです。SAP Leonardoでビジネスプロセスの中にIoTを組みこむことを考えてみてください。
境界を超えた”防災・減災社会”の
真の社会実装に向けて
災害多発時代を迎えて
私たちが住む日本は世界有数の自然災害多発国です。日本の国土は全世界のたった0.25%の面積しかありませんが、世界で起こったM6以上の地震の約2割は日本周辺で発生しており、世界の活火山の約1割は日本に存在しています。
地震や火山の噴火だけでなく、黒潮海流の蛇行や海面温度などの気候変動を発端とした台風や集中豪雨による洪水、土砂崩れなどといった自然災害が日本、そしてアジア諸国で発生しています。同時に米国ではハリケーンや山火事、欧州では移民問題から来る感染症患者の増加が指摘されています。
参考:国土交通省 国土が抱える災害リスク
このような現実を前に、SAPジャパンは2018年より大分大学、大分県を牽引するIT企業であるザイナスと防災・減災のための情報活用プラットフォーム(Earth Disaster Intelligent System & Operational Network 以下、EDISON)を進めています。
このプラットフォームは多種多様なデータ統合により始めて把握可能となる災害リスクの洗い出しや早期発見、事前復興に代表されるリスク・マネージメント、災害発災時の迅速な初動対応とメカニズム解析を可能にするクライシス・マネージメントの機能を有しています。
参考:災害発生時の迅速かつ正確な初動対応を促すための情報活用プラットフォーム―減災社会の実現と協働を目指して―
2019年4月15日のドイツ連邦教育研究省アニヤ・カルリチェク連邦教育研究大臣の来日に合わせて大分大学とSAPジャパンが推進する防災・減災プラットフォームEDISONのデモが行われました。
「3.11――東日本大震災で私が痛感したのは『自分は何も出来なかった』という無力感でした。多発する災害を前に何も出来ない自分で良いのだろうか?と考えていました。大分大学は2018年に医学、教育学、社会学、経済学、理学、土木工学、都市計画学などによる学術的な視点を網羅した減災・復興デザイン教育研究センター(以下、CERD)を設置し、災害調査・減災教育・復興デザインに取り組んでいます。CERDと同じ想いを持っているからこそ、SAPジャパンとしてCERDに参画し、テクノロジーを最大限に活用したプラットフォームを構築していくことになりました」。
こう語るのは、SAPジャパンでEDISONを推進し、CERD客員研究員でもある吉田彰氏。近年、大分県では2016年に発生した熊本地震での別府市や由布市での被害、九州北部豪雨(2017年)や台風18号(2018年)による豪雨・洪水被害、中津市耶馬溪町の土砂崩れ災害(2018年)が発生し、鶴見岳・伽藍岳、九重山などの火山活動、南海トラフ地震や中央構造線断層帯の評価見直しなど、共存共栄にあった自然環境と改めて向き合い、持続可能な社会形成を考える転換点を迎えています。
2018年4月11日に大分県中津市耶馬渓町で発生した山地崩壊による土砂災害においてCERDは中津市長からの要請による災害派遣を実施。災害対応に大学も加わるなど国内では極めて珍しい対応を行いました。捜索活動が続く中、CERDでは二次災害の防止や捜索活動にドローンを活用した情報分析を展開。災害発生のメカニズムや捜索個所の推定にデータを用いたほか、災害情報を速やかに大学から公開するなどして、関係者間で情報の共有の仕組みを進めています。
一方、SAPはテクノロジーを駆使したイノベーションにより、社会問題の解決に取り組んでいます。2017年にドイツのハノーバーで開催された展示会「CeBIT 2017」ではメルケル、安倍の日独両首脳に向けて災害対策プラットフォームをデモンストレーションし、災害リスク分析の取り組みを紹介しました。しかし、このデモンストレーションを可能にする為のデータを統合・共有する仕組みは存在していませんでした。
「各省庁・自治体との情報連携や情報統合がなぜ必要なのでしょうか? それは、各種データを自治体やさまざまな組織がそれぞれに収集・管理しているからです。気象データは気象庁、地形や道路の情報は国土交通省が有しています。地域全体の防災情報は都道府県庁が管理していますが、末端は細かく分かれます。例えば一級河川は国土交通省、二級河川は都道府県、三級河川は市町村が管理しています。浸水被害を予測し分析を進めるためには、あらゆる情報を統合して管理するところからスタートしなければなりません」
テクノロジーの境界を超えて
CERD、SAPジャパン、ザイナスの3者を中心にLenovo、ESRIジャパン、Google Cloudなどのテクノロジー企業を招聘し、データ統合や共有の必要性、各種テクノロジーの適応可能性が議論され、EDISONはスタートしました。
EDISONの中核としてデータ統合を司るのは「SAP HANA®」です。
SAP HANA®はインメモリープラットフォームを採用しており、例えば変動する気象などのデータをリアルタイムに処理します。同時に地理空間情報、次々に発信されるストリーミングデータを統合し、集積されたデータはデジタルイノベーションシステム「SAP Leonardo」の機械学習などのAIと連携する事によって災害リスクの評価を行い、速やかで正確な初動対応をアシストします。
SAP HANA®を支えるLenovo社のハードウェア、透過的なビューを提供するESRI ArcGIS、更にはGoogle Cloud Platformとの連携による機能強化などテクノロジー企業の境を超えた取り組みが実現しました。
EDISON の機能検証は2012年、2017年に発生した九州北部豪雨災害により大きな被害を受けた大分県日田市をモデルに進められました。
九州北部豪雨災害をシュミレートしたデータを説明
九州北部豪雨発災前後の人工衛星画像を解析し、AIによって状況変異を捉えた上で、ドローンを活用した詳細状況を集積します。更には3Dモデルを使ったメカニズム解析や緊急施設との位置関係などの情報を自治体や関係機関にスピーディーに共有していく事を実現しています。
災害に対する意識を向上させるためには
気候変動や社会形成の転換点を前に、システムの整備だけではなく災害意識の向上による社会実装の取り組みが重要になります。
「テクノロジーは道具でしかありません。それをどう生かし、防災・減災のための情報活用プラットフォームを浸透させていくか―。キーワードは”ソーシャル・インプリメント”つまり、社会実装です。政府が強くてしなやかな国づくりを進め、強靭化(レジリエンス)を考えた防災計画、体制の整備を進めてきました。しかし、行政だけの努力では住民全体の意識を向上させていくことは困難です。強固な防災インフラや緻密な防災計画が生かされるのは住人の方々の防災意識があってこそ。これまで起こった多くの災害では、危険が目前に迫っていても『ここは大丈夫』『自分は安全だ』と思い込み、迅速な避難につながらないというケースも見られました。
災害対策は多重防御の考え方にシフトしています。災害が起こったら、正しい情報を把握し、迅速に避難しなければなりません。そのために、住人全ての方々の防災意識を醸成し、過去の教訓をいかにして次世代に継承していくかが重要な課題になるのです。教訓の継承としての減災教育が重要になってきます。」
九州北部豪雨災害のVRを体験するアニヤ・カルリチェク連邦教育研究大臣
「例えば、ドローンが撮影した被害エリアのデータを360度画像化して、臨場感あるVR映像で体感できるデジタルを生かした減災教育を進めています。実際に起きた災害の体感を通じて、子供達、そして住民の意識を向上させることが狙いです。自然災害を自分ごととして捉えられたら、意識や行動も変わります。防災意識を高め、人的被害を少なくすることにも繋がると考えています。」
参考:過去に学び、未来を切り開く、Purpose-Led(目的主導型)のイノベーション―防災シンポジウムin 日田 九州北部豪雨災害からの教訓 レポート
産業そして国境を超えて
「近年、日本各地では大きな地震が発生し、中国地方では水害や土砂崩れなどにより甚大な被害をもたらしました。しかし災害に国境はありません。災害に関する危機感を共有するアジア圏、欧米諸国とも密接に連携していく必要があります。これはSAPというグローバル企業だからこそ出来ることだと考えています。そして同じ目的を持ちSAPという仕組みを共有するお客様との連携が何よりも重要です。
例えば薬品や食料などの救援物資を考えても、製造・運輸・小売などの企業との連携が重要ですし、多くのデータを相互補完することで被害を限りなくゼロに近づける事や迅速な復旧が出来ると考えています。SAPジャパンはCERDとの共同プロジェクトを強固に進め、今後もさらなるブラッシュアップを続けます。
しかし、この取り組みを深化させるためには、テクノロジーやプラットフォームの進化だけでなく、企業の事業継続計画や新規ビジネスに寄与して行きながらあらゆる境界を超えていくエコシステムを形成し、産学官民が連携して国境をも越えた対策を進める必要があります。」
アジア地域の市長サミットでも行政機関や研究機関に取り組みを説明
大分で始動した防災・減災社会の社会実装の実現を目指すEDISON。
人々の意識を変え、災害に強い「しなやかなまちづくり」を実現させ、安全でより良い明日を創るために、SAPは今後も技術や人的支援をとおして社会に貢献していきます。
これからの財務部門はテクノロジーをどう活用するか? SAPグループのデジタルファイナンスの取り組み
2018年12月11日に開催された「SAP Leonardo NOW Tokyo」において「デジタル時代のCFO部門の在り方~変革を支える経理財務部門の組織の変化と今後の展望」と題されたセッションでは、デジタルファイナンスに対するSAPグループの取り組みや具体的なデジタルテクノロジー事例を紹介。先進的な取り組みを進めている企業から講師をお迎えし、パネルディスカッションも行われました。
SAPグループの財務組織改革
はじめにSAPジャパンの代表取締役 常務執行役員 最高財務責任者(CFO)のアン・サンゴンより、SAPグループの財務組織の改革について説明しました。財務組織にもオペレーションの効率化、リスクと財務コンプライアンスのプロアクティブな管理、デジタルトランスフォーメーションの推進が求められています。しかし数年前までは、硬直したレガシーERPシステム、新たなビジネスモデルによる複雑さの増大、財務とコンプライアンスのプロセスにおける柔軟性低下、手間のかかる報告作業などの課題を抱え、非効率な組織となっていました。
そこでERPのコアをSAP S/4HANAに進化させるとともに、AI技術を使って効率を高め、ビジネスの目標を理解して成功を支える柔軟な組織へと変革し、顧客のニーズにアジャイルに対応できるよう、組織改革に乗り出します。SAPでは、財務組織には「ガバナンス・法令遵守を徹底させる役割」「ビジネスパートナーとしての役割」「変革を推進する役割」の3つがあると定義しています。
Leonardo Now CFO Session_Final Share.pdf P8
組織面では、子会社ごとの財務業務を本社に集中させ、制度や税務、財務、プロセスなどをグローバルに集約して標準化を実施。各子会社のCFOがビジネスパートナーとしての役割に集中できるようにしています。
一方テクノロジー面ではSAP S/4HANAで業務プロセスを再構築し、SAP Concur、SAP Fieldglass、SAP Ariba、SAP Analytics Cloudなどのクラウドテクノロジーを使い、ビジネスの効率化と可視化を実現。組織の変革とは新しいミッションが生まれることになるため、効率化を求めるには新しい技術を利用し、異なる組織とのコラボレーションが必要となります。それを支えるのは人であり、そのための継続的な学習なども重要です。
Leonardo Now CFO Session_Final Share.pdf P13
デジタルファイナンスに有効なクラウドソリューション
続いて、SAPジャパンのCFOソリューション推進室 シニアソリューションプリンシパルの中野浩志が登壇し、財務組織変革で使われたテクノロジーについて解説しました。多くのCFO部門は、デジタルテクノロジーに高い関心を持ち、インメモリーの超高速処理、ERPとBIの統合、機械学習などに注目しています。シェアードサービスやCenter of Excellence(CoE)などを使い、業務遂行体制を変え、効率化や強化を実現したいと考えているのです。
CFO部門の武器となるデジタルテクノロジーは、次世代ERP、AI、クラウドです。新たなチャレンジを行うためには、工数を減らすことでリソースを確保して付加価値の高い業務を行うとともに、明細データを即時かつ多角的に分析できるインフラを整備して意思決定を高度化していく必要があります。
意思決定の高度化の具体例として、「明細即時集計型多軸分析」と「機械学習を利用した年度着地予測」の2つの方法をご紹介します。SAP S/4HANA Financeのような次世代ERPによる明細即時集計型多軸分析では、従来は業務単位で分離していたデータ構造を統合し、事前集計値を持つことなく、すべての明細データを即時に、任意の切り口で集計/分析できます。また、財務会計や管理会計、固定資産など複数に分かれていた伝票データも統合され、横断的に即時に集計してレポートすることが可能です。SAPでは、約8億5,000万件の明細データを瞬時に分析。会議中に懸案が出てきても、その場でドリルダウンして分析できます。
Leonardo Now CFO Session_Final Share.pdf P19
また、SAPの予測には、四半期予測と年度着地予測の2つがあります。計画ツール(BPC Business Planning&Consolidation) を活用して各ローカル拠点から地域統括、本社へとデータ受け渡しの整流化を図ったものの、年度着地予測の精度が悪いのが課題でした。そこで年度着地予測については機械学習を利用することで恣意性を排し、事実に基づく予測および影響度分析を迅速かつ少人数で実現しています。
Leonardo Now CFO Session_Final Share.pdf P21
SAPでは、年度着地予測に機械学習を利用することで、2017年はグループ全体の年間営業利益を99%の精度で予測。また、これまでは業務の7割を占めていたレポート作成業務を3割まで減らすことで、事業側のニーズをより深く理解し、社内のデータサイエンティストと連携して予測データモデルをデザインする役割に注力できるようになりました。
効率化には、エンドツーエンドで業務プロセスを標準化・簡素化・自動化する必要もあります。SAPでは財務オペレーションを本社に集約し、定型的な業務はシェアードサービス、意思決定や専門性が必要な業務はCoEが行い、地域横断で業務プロセスを標準化、簡素化、自動化しています。例えば2015年は、2011年比でM&AなどによりP2P(調達から支払い)の取引量が20%増加したにもかかわらずオペレーションコストを4%削減。さらに、調達から支払いまでの管理をSAP Ariba、外部要員管理をSAP Fieldglass、出張および経費管理をSAP Concur、全ての支出カテゴリーを横断した統合支出の可視化・分析をSAP Analytics Cloudを使うなどの新たなクラウドベースのアーキテクチャーに移行しています。
デジタルでCFOが実現できることと今後の変化
最後に行われたパネルディスカッションは、EYトランザクション・アドバイザリー・サービス株式会社 パートナーの石塚卓氏をモデレーターに迎え、株式会社ブロードリーフ 取締役 副社長の山中健一氏、大手グローバル企業のY氏に、SAPジャパンCFOのアン・サンゴンが加わりました。
最初の議題は、「ITとデジタルの違いは?」というものです。サンゴンは、ITはオペレーション効率を改善するものであるのに対し、デジタル化は業界に破壊的な創造と新たなビジネスチャンスをもたらすものだと説明。続いてY氏は、デジタルによって数万人の社員の資質データの分析が可能となり、調達交渉に役立てられるようになったと話し、山中氏は、テクノロジーの進化によって、非常に細かなデータを時系列に取ることができるようになり、まったく知らなかった未知の領域や世界観が広がってきていると語りました。さらにモデレーターの石塚氏の示した見解は、ITは90年代から2000年代まで人力でやってきたことを機械がやれるようになったことを指す一方、デジタルは大量のデータを自動的に収集でき、これまで人ができなかったことができるようになることというものです。
次の議題は、「デジタル化された世界の中で実現できることとは?」です。Y氏は、国内従業員の約70%が所属するグループ会社にSAP Concurを導入した結果、従業員はデータ入力に煩わされなくなる一方、全体の購買データを細かく集計/分析でき、データの見える化で気づきが生まれ、コスト削減が実現できていると語りました。続いて、約20年前からECのデータなどを分析/活用してきたと語る山中氏は、デジタルの世界で最も変わったのは仮説/検証の部分だと示唆します。以前は、日々のデータをバッチでデータウェアハウスに落とし、BI分析を専門チームが時間とコストをかけて行っても、それを基にした仮説/検証の正確性は必ずしも高くありませんでした。現在はほぼ自動的に市場動向やユーザーの声を拾って分析することができるようになり、迅速に何度も仮説/検証を行えることで商品価値や顧客体験を高めているといいます。
最後に、「今後のCFOの役割は?」というテーマで議論が交わされました。サンゴンは、CFO組織は、テクノロジーを活用してより効率的に運営することが求められていると説明。たとえば、SAPでは、SAP Digital Boardroomを使ってリアルタイムデータをグローバルで同時に見られるようにし、機械学習を使った分析を行って迅速に細かなレポートを作り、ビジネス課題をリアルタイムに把握し、適切な意思決定に活用していると話しました。一方、山中氏は、今後は単純な意思決定はなくなり、CEOがAIから助言を受けて意思決定するような時代になっていくと予想。次世代のCFOは、企業を成長させるための財産にはお金だけでなく知財や人財も含まれると考え、どう管理して役立てていくかを支援していくようになると語りました。
最後に石塚氏は、今後の会社の成長や方向性を考えてデジタル化する上で、何が足りないかをCFOが理解しておく必要があると強調。CFOに知見があれば、足りない部分を埋めるためにアライアンスやM&Aを行う際に適切な意見を出せるが、なければ取り残される可能性もあると語り、CFOの知見や経験が重要になってくると締めくくりました。
SAP Leonardo× Google Cloud Platform (GCP) 機械学習ワークショップ開催
SAP Leonardo × Google Cloud Platform (GCP)の機械学習ワークショップが2018年12月6日にGoogle Cloud Japan 東京オフィスにて 開催されました。機械学習領域におけるSAPとGoogle Cloudの共同ワークショップとしては世界初で、30名以上のお客様・パートナー様が参加され会場は大盛況となりました。また、90%以上の参加者から満足したとのアンケート評価を頂きました。
なぜSAPとGoogle Cloudの共同開催なのか?
2017年にクラウド領域でパートナーシップを発表して以降、SAPはGoogle Cloudと多様な取り組みを行ってきました。今年の6月に開催されたSAPPHIRE NOWでも、SAPとGoogle Cloudの機械学習ソリューションを組み合わせることで実現する次世代のアプリケーションやインフラストラクチャについて紹介しました。
例えば、Googleが開発した機械学習ライブラリであるTensorFlowによるモデルとSAP Leonardo Machine Learning Foundationの統合により、機械学習を適用した業務アプリケーションの開発が可能になります。製造業の分野では、機械学習モデルの組み込まれたSAPアプリケーションにより生産管理を効率化することに加え、GoogleのTensorFlow等を活用することで、商品の良/不良を解析するなど、より高度な品質検査が行われています。
このように機械学習の領域において、SAPとGoogle Cloudは相互補完関係にあり、連携することで企業の業務を効率化することに寄与しています。
SAP Leonardo Machine Learning で実現するIntelligent Enterprise
SAPは、企業のデジタル戦略を支える最新プラットフォームとして「Intelligent Enterprise」を提供しています。Intelligent Enterpriseとはその名の通り、企業活動のルーティンワークやビジネスプロセスを自動化し、人間がより付加価値の高い活動を行えるようにするためのサービスです。SAP Leonardo Machine Learning Foundationはその中核を支える技術である機械学習のプラットフォームとして機能しています。
「SAP Leonardo Machine Learning Foundation」は誰にでも使いやすいAPIを用意しており、データサイエンススキルを必要とすることなく機械学習モデルを組み込んだアプリケーションの開発が可能です。トレーニング済の機械学習サービスを利用可能な他、カスタム機械学習モデルを導入したり、独自のトレーニングデータを使用して既存のモデルを調整することもできます。画像内の物体を検出して識別したり、類似した画像やテキストのコンテンツの発見、自然言語のテキストからのキーワード抽出など、従来人が時間をかけて行っていた処理を自動化することに貢献します。
ハンズオン1: Google Cloud Machine Learning Engineでニューラルネットワークモデルをトレーニング
ワークショップの前半では Google Cloud Machine Learning Engineを用い、TensorFlowコードの分散構成を使用した畳み込みニューラルネットワークモデルのトレーニング方法を説明しました。ハンズオンを通じ、Google Cloud Platformの機械学習サービスを利用し、学習済モデルの使用だけでなく、モデル設計や最適化を行う方法を実践していただきました。
AIの民主化がさわがれる昨今ですが、機械学習のモデルを作成できる開発者やデータサイエンティストは非常に限定的です。Google Cloud Machine Learning Engineはトレーニングと予測の機能を備えており、開発者やデータサイエンティストでなくとも優れた機械学習モデルを構築し、本番環境にデプロイすることもできます。今回のハンズオンでは、特別な専門知識を持った方以外にも参加いただいたため、画像解析領域では定番のMINISTを使用したTensorFlowモデルの作成、TensorBoardによるトレーニングプロセスの可視化、Google Cloud Datalab での予測テスト等を体験していただきました。
ハンズオン2: SAP Leonardo Machine Learning Foundation
ハンズオンの概要について説明しています。
ワークショップ後半ではSAP Leonardo Machine Learning Foundation を使った画像認識・テキスト分類、ハンズオン前半部分で作成したTensorFlowモデルをSAP Cloud Platform上にデプロイして、フロントエンドの開発ライブラリであるSAPUI5にて実装するなどのハンズオンを行いました。
写真は当日参加者の方に実装していただいたアプリケーションの一例です。左の図は写真をweb上にアップロードすると、その写真が何であるかを判断するアプリケーションです。SAP Leonardo Machine Learning Foundationでは事前データセットを学習したモデルをAPIとして提供しており、そのAPIを使ったモデルと画像を学習させた後の結果をそれぞれ表示しています。
右の図は0-9の数字の画像をweb上にアップロードすると写真を解析し、数字を表示するシンプルなアプリケーションです。SAP Cloud Platform上にデプロイしたTesorFlowモデルをSAPUI5で実装しました。
今回のワークショップではSAP、Google Cloud両社のクラウド、機械学習ソリューションを活用した機械学習モデルの開発やアプリ開発を行っていただき、操作感や連携シナリオを体験いただきました。SAPでは業務アプリケーションに機械学習を組み込むことで、ユーザが意識せずに機械学習の恩恵を受けられるように開発を進めてきました。Google Cloudソリューションとの連携により機械学習の領域をさらに強化、業務アプリケーションをより賢くすることで、企業の「Intelligent Enterprise」の実現へと加速していきます。今回のワークショップだけにとどまらず、今後も積極的な取り組みを進めていきますのでご期待ください。
「8KとAIoT」で世界を牽引するシャープの事業変革を支える国内ERP統合
作成者:SAP編集部、投稿日:2020年2月17日
シャープ株式会社は、「8KとAIoT*で世界を変える」を事業ビジョンに掲げ、卓越した品質のモノやサービス/ソリューションを提供する企業へと事業変革を進めています。2019年10月に大阪で開催されたイベント「SAP NOW Osaka」には、同社のIoT事業本部 クラウドソリューション事業部 事業部長の柴原和年氏が登壇。シャープの事業変革を支えるSAP ERPシステム統合の事例を中心に、最新の取り組みとプロジェクトの工夫について語っていただきました。
*AIoT:AI(人工知能)とIoT(モノのインターネット)を1つにした造語
最先端技術に挑み続けるハイテク企業のIT内製化の狙い
2019年、「8KとAIoTで世界を変える」を事業ビジョンとして発表したシャープ。8K技術でさまざまなイノベーションを巻き起こし、人々の暮らしを変えていくとともに、AIoTで身の回りの機器が人に寄り添い、新しいパートナーとして生活をより豊かにしてくれる社会の実現を目指しています。
8Kはフルハイビジョンの16倍の解像度により、圧倒的なリアリティを実現します。シャープは自社の超高精細映像技術を核にして、テレビやカメラなどの機器を通じて医療やセキュリティ、工場、教育など幅広い分野においてパートナーと連携する8Kエコシステムの開発を進めています。また、AIとIoTに対応したAIoT機器がヒトや環境の変化に気づき、考え、インターネットを通じてさまざまなサービスを展開することにより、スマートホームやスマートオフィス、スマートシティなどの創出に貢献します。「既に自社のデータセンターに『AIoTプラットフォーム』を構築し、約300の自社機器だけでなく、警報機やシャッターなど他社機器とも連携しています」と柴原氏は語ります。
柴原氏が率いるクラウドソリューション事業部はIoT事業本部の傘下に位置し、これらの事業ビジョンを技術面で支えています。ITを活用したオフィスソリューションサービスを社内外に提供する同事業部が掲げたのが、「IT内製化」です。
「以前は『社内にIT専門家などいらない』と考え外部の業者に任せていました」と柴原氏は振り返ります。しかし現在は、外部のデータセンターから全ての機器を自社データセンターに移行させ、できるだけ自分たちで汗をかいて仕組みを作っています。そこには、内製化によるコストの削減と、社内にノウハウを蓄積させていずれは外販して収益化を図るという2つの狙いがありました。
Sharpの事業ビジョン(ITの取り組み)
「ここ3年間は1円以上の取引全てを会長決裁にして取り組んでいます」と、ITコスト削減に対するシャープの姿勢は極めてストイックです。さらに、社内のシステムをSAPに統合する過程もコスト削減の機会と捉えています。例えば、社内の各部署がバラバラに類似のパッケージソフトウェアを使っていることが分かったため、SAPソリューションに集約するか、オープンソースのソフトウェアを使う方針を徹底。その他にも、PC購入など各部門が個別に行っていた契約は、IT部門が一括契約して価格交渉力の向上を図るなど、スリム化を進めています。
柴原氏は、コスト削減と同時に社内にノウハウを蓄積させることも考えました。例えば、13台あったIP PBXが老朽化したので、汎用サーバー上にソフトPBXを作り、スマホアプリを開発することで内線電話を内製化。この取り組みは、ノウハウを蓄積させると同時に、外出先でも通話できるなど社内ユーザーの利便性向上にもつながりました。また、オープンコミュニケーションの取り組みの一環として、ビジネスチャットや、チャットを活用したテレビ電話の仕組みなども開発し、社内における議論のスピードアップやコミュニケーションプロセスの軽減にも成果を上げています。
「One SHARP」の方針のもと事業の枠組みを超えてシステムを全体最適化
シャープは1998年頃から拠点ごとにSAPシステムを導入し、2004年頃には海外を含めて60拠点で利用するようになりました。現在は各拠点にあるSAPシステムをバージョンアップしながら統合作業を進めています。その背景について柴原氏は、「One SHARPの考えに基づき、独⾃開発のアドオンを最小化して、全体最適を実現する方針へと転換しました」と語ります。
過去の同社のSAPシステムは、ある導入拠点のシステムを次の拠点にコピーすることで拡張されてきました。順番に導入が行われれば問題ありませんが、同時に複数拠点に対応する必要も出てきたため、違うバージョンのシステムが点在するようになってしまったと柴原氏は振り返ります。その結果、保守対象となる機能数が増大し、バージョンアップ工数も増え、複雑化していきました。こうした反省を踏まえて現在は、シンプル化した業務をSAP標準機能と共通アドオンで共通テンプレート化し、同じプラットフォームで運用。事業部ごとに必要な機能が異なるため、そこはオプションとして選べるようにしています。
さらに、仕入先コードなど、重複しているマスタ・コード値を解消し、品目タイプや基本数量単位などの整合性を確保。外製先余剰在庫を考慮した部品所要量計算はSAP標準機能を活用しています。また、原価計算の基準が各事業所でバラバラだったため統一するなどの取り組みも進めました。その結果、保守コストが半減し、1,500~1,600に上っていた全体のアドオン数を1/3近くの400本弱まで軽減できたといいます。
システム共通化を通じて自発的な取り組みを促進
システムの全体最適化を推進するにあたって、もっとも苦労したのはシステムを統合する理由について、現場をどのように説得するかということでした。各事業所では自分たちで築き上げてきたシステムがきちんと動いているという意識が強かったためです。しかし柴原氏は、「全社最適化をして組織が変革しようとしている中、事業所が個別にシステムを作っている時代ではない」と言い切っています。
またシステム統合を成功に導くため、プロジェクトメンバーの意識づけに「10箇条」を掲げたといいます。例えば「業務のシンプル化とシステムの簡素化の実現」や「現状維持志向から改革志向へ」といったキーワードを掲げました。印象的だったのは「『今と同じ』『現行保障』の発言は禁句」です。
システムの共通化を進めるにあたって、同社はある工夫を行いました。どの事業所がどれだけ共通機能を使っているのかを定例会議で発表し、事業所間で達成度KPIを競争させる仕掛けをもうけたのです。結果的には、システムの全体最適化が図られ、一番反対していた事業所でも80%の標準機能を利用するまでになったといいます。
システム統合を実現するためのキーワード
最後に柴原氏は、シャープが社内で活用するさまざまなオフィスツールについても紹介しました。ビジネスコミュニケーションにチャットやWeb会議、AIチャットボット支援などを活用することで、フラットな議論を促し、ひいては組織全体の力を底上げしていく方針です。さまざまなツール群の活用がビジネスコミュニケーションをさらに活性化し、「One SHARP」を後押ししていくことになります。
以上