ロイヤル顧客育成の真実

Googleで「ロイヤル顧客」と検索すると、サジェストで3番目に「育成」というキーワードが出てきます。でも本当にロイヤル顧客って「育成」されるものなのでしょうか?実はロイヤル顧客が生まれるには「2つのルート」があると考えています。

目次

  1. ロイヤル顧客の定義
  2. 真実の瞬間
  3. 初回の体験が結構、大事なのではないか?
  4. 自社の「真実の瞬間」をどう見つけるか?
  5. 人に感謝や感動が生まれるのは「困った時」では無いか?
  6. 真実の瞬間は購買後にもある(認知的不協和の解消)
  7. ロイヤル顧客に至るには、2つのルートがある
  8. 最後に

ロイヤル顧客の定義

さて、そもそもロイヤル顧客ってどんな人達でしょう?自社サービスを沢山人に勧めてくれる人?利用頻度が高い人?沢山買ってくれる人?マーケターによってその定義は異なるかもしれません。

Wikipediaの定義を見ると「ある企業や商品やサービスに対しての忠誠心の高い顧客のことを言う」となっていますが、企業としては結果、利益に結びつかなければ意味が無いわけで、実務の場面では、定量的にはLTVで定義したくなるのが正直なところです。 

ただここに一つの落とし穴があるようで、beBit代表の遠藤さんのコラムによれば、必ずしもLTVの高い顧客がロイヤル顧客とは言えないようです。

ある日本の金融機関では、売上の90%は上位8%の顧客から得られているものだった。しかしこの売上上位8%の顧客を対象に調査を行ったところ、約半数は「他社への乗り換えが面倒なので使い続けているだけ」というロイヤルティの低い顧客であった。 

https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12058.html

よって正確に定義するとすれば、遠藤さんもおっしゃるとおり、「企業の製品やサービスに高い愛着を持ってくれており、かつ、実質的な利益も与えてくれる顧客」と定義するのが、妥当かと思います。もっともしっくりくる日本語としては「お得意様」という言葉ではないでしょうか?

ちなみに、このnoteでは、「ロイヤルティ」と「エンゲージメント」をほぼ同義として捉えて使用しています。実際には両者には以下のような微妙なニュアンスの違いがあるかと思いますが、一旦同じとさせて下さい。

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では、このような「ロイヤル顧客」は、どのようにして生まれてくるのでしょうか?

真実の瞬間

ロイヤル顧客の話をすると、よくセットで聞くのが「育成」というキーワードです。実際、Googleでロイヤル顧客と検索すると、サジェストで3番目に表示される程、頻繁にセットで検索される人気ワードです。

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育成という言葉のイメージからすると、ロイヤル顧客は、最初の購買や利用体験においては「普通の顧客」で、企業が継続的に育成の手間暇をかけた結果として、「ロイヤル顧客」にレベルアップするものなのでしょうか?

もちろんそういったケースも多いのかなと思います。が、たった一度の「自分の期待を大きく上回る体験」が引き金になっている、というケースも結構多いのかもしれないな、と感じています。

経営学の成果に「真実の瞬間」という考え方があります。1981年にスカンジナビア航空のCEOに就任し、赤字で苦しんでいた同社をたったの1年で立て直したヤン・カールソンが、自伝的著書「Riv Pyramiderna」に著し有名になりました。 

「当時年間1000万人の旅客が、それぞれほぼ5人のスカンジナビア航空の従業員に接し、その1回の応接時間の平均が15秒であった。従って、1回15秒で1年間に5000万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。その5000万回の“真実の瞬間”が、結局スカンジナビア航空の成功を左右するのである。その瞬間こそ私たちが顧客に、スカンジナビア航空が最良の選択だったと納得させなければならないときなのだ」
(出典)ヤン・カールソン「Riv Pyramiderna」

航空機の利用では、その予約に始まり、搭乗までの体験、フライト中の体験等、多くの体験の集合として、総合的な体験価値が決まりますが、顧客満足度を左右する要因の大きなウエイトが、スタッフと顧客が向き合う「たった15秒」に集約されているという考えです。

この15秒間に、「自分の期待を大きく上回る体験」を顧客が感じた場合、初めてのフライトであっても、その顧客はその瞬間に、ロイヤル顧客になる可能性があります。ヤン・カールソンは自著の中で具体的な事例として、以下のような逸話を書いています。

お客様であるピーターソン氏は、コペンハーゲンで重要な商談に参加するため、アーランダ空港に向かうが、到着したとたんに大変なミスに気がついた。航空券をホテルに置き忘れてしまったのだ。 

わらにもすがる思いでスカンジナビア航空のチケット係に相談すると、予想外の回答が待っていた。「ご心配はいりません。搭乗カードをお渡しします。仮発行の航空券もそえておきます。ホテルのお部屋番号とコペンハーゲンの連絡先さえ教えていただければ、後はこちらで処理しましょう」。 

係員はすぐさまホテルに電話し、航空券を見つける。そして自社リムジンを手配し、ピーターソンの出発前に航空券が彼の手元に届いた。「ピーターソン様、航空券でございます」。おだやかな声に何より驚いたのは当事者である彼自身だった。 (ヤン・カールソン「真実の瞬間」) 

初回の体験が結構、大事なのではないか?

第一印象というのは、中々に強力なモノで、心理学の世界でも第一印象を後日修正することは難しいと言われています。

実際に、人間の脳波計測を利用した「ニューロフィードバック手法」を用いた実験でも、最初の学習が2回めの学習に干渉して、認知的な修正が効きづらいという結果が出ており、後々まで、初回の体験が影響を与える事が確認されているそうです。 

この事から考えると、顧客との長い関係性の中で、顧客満足度に対して後々まで影響を与える大事なポイントが「初めての体験」の時かもしれないと思うのです。

顧客が何かを購買したり利用したりする際、そこにはプロセスが存在します。先ほどのスカンジナビア航空の例で言えば、「予約→搭乗までの時間→フライト中→到着し空港を出る」といったプロセスであり、このプロセス全体が「顧客体験」となります。

しかし、各プロセスによって顧客満足度に影響を与える「度合い」は異なるとされており、航空機の場合には「フライト中のキャビンアテンダントとのコミュニケーション」が、大きな影響を与えていると考えられました。つまり「真実の瞬間」です。

よって、「初めての体験」の時に、その「顧客体験プロセス」の中で、最も満足度の影響度が高いポイント(真実の瞬間)にフォーカスし、「顧客の期待を大きく上回る体験」を提供する事ができれば、その顧客がロイヤル顧客になる可能性が、飛躍的に高まるのでは無いかと考えています。

この顧客体験プロセスにおける真実の瞬間について、何か良い事例は無いかと調べたところ、「火浦 俊彦氏+ベイン・アンド・カンパニー」が、日経BizGateで書いている記事が素敵でしたので、ちょっと拝借させていただきました。(問題ありましたらご連絡ください) 

あるクレジットカード会社では、カード紛失時の対応が顧客ロイヤルティに影響することがわかったため、迅速に代替カードを再発行する仕組みの構築に積極投資し、大きな成果をあげました
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO3110663029052018000000?page=2

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自社の「真実の瞬間」をどう見つけるか?

では実際に自社の製品やサービスの「真実の瞬間」をどう見つければ良いのでしょうか?

真っ当な方法を取るのであれば、昨今主要な手法となりつつある「NPS調査」を行い、NPSスコアと各プロセスの関係を定量的に把握しつつ、それらのプロセスの改善活動を行い、実際のLTVとの関係をテストしていく、という手法が王道かと思います。

ただこれは非常な手間と時間がかかります。

また一つ疑問があるのですが、「真実の瞬間」とは、多様な顧客にとってそもそも共通のモノなのでしょうか?
私にとっての「真実の瞬間」と、他の人にとっての「真実の瞬間」は果たして同じなのでしょうか?

人によって大事にする価値観や、その企業の製品やサービスに期待するポイントは異なっているかもしれません。よって、本来は「その人にとって真実の瞬間」を捉え、そこに「期待を上回る体験」を提供する事が求められるのでは無いかと考えるのです。

人に感謝や感動が生まれるのは「困った時」では無いか?

人の心を大きく動かす瞬間の多くに、「困った時に助けられた」、「嫌だなと思っていた事を取り除いてくれた」という場面があると思います。そして、解決できない事象や、困り事は、人それぞれ固有のモノであり、発生する瞬間もマチマチです。(もちろん最大公約数はあります)

これらの「固有のペインポイント」が発生する瞬間に立会い、価値を提供する事ができれば、それはその人にとっての「真実の瞬間」となり、満足度を大きく向上させると考えられます。

リアルの接客現場であれば、販売員というインターフェースを通じて、その瞬間を察知し、顧客に手を差し伸べる事ができれば、満足度は高まり、その店員さんやお店のファンになるかもしれません。(実際に8年間の店舗経験で、多くの場面でその瞬間を目撃してきました)

真実の瞬間は購買後にもある(認知的不協和の解消)

顧客の便益が利用時に生まれる「サービス」とは異なり、モノの購入の場合には、実際の顧客便益は「購入後に使用する際」に生まれます。ヒトは、購買そのものを目的とするのでは無く、手に入れる製品が解決してくれる「ソリューション」を購入するわけです。

よって、手に入れた製品がその便益を発揮するまで、そして発揮する間も、その製品を販売した業者の「体験」の一部と考えられます。なので、各社アフターサポートなどに力を入れるのだと思います。

その中で、意外に重要視されていないプロセスが「購入完了してから、その製品が届くまでの間」にあるのでは無いかと考えています。

認知的不協和の解消という社会心理用語があります

認知的不協和(にんちてきふきょうわ、英: cognitive dissonance)とは、人が自身の中で矛盾する認知を同時に抱えた状態、またそのときに覚える不快感を表す社会心理学用語。アメリカの心理学者レオン・フェスティンガーによって提唱された。人はこれを解消するために、自身の態度や行動を変更すると考えられている。

皆さんも、10万円くらいする高額なビデオカメラをネットで購入した際などに、購入直後、手に入れた高揚感と共に、「本当にこのカメラで良かったのか?もっと他に良いものがあったのでは?」という気持ちになったりした事は無いですか?

人はそれなりにリスクを伴う(金銭的リスクを含む)意思決定をした際に、その判断が正しかったのかどうかというストレスを感じます。これは前述の「困ったり不安を抱えている時」と同じような状態であると考えられ、この「不安」を積極的に解消してあげる事により、満足度が高まる可能性があります。

昔、店頭で働いていた際に、購入頂いたお客様に、あえて購入した製品の「カタログ」をお渡ししていました。目的はまさに認知的不協和の解消により、後日の未開封返品を減らす為でした。皆さん、結構、喜んでそのカタログを持って帰るのですよね。恐らくお客様自身も、購入した瞬間から、意思決定に伴うストレスを感じており、無意識に不協和を解消したいという気持ちがあったのかもしれません。

コストもかからず、すぐに打てる施策としては以下が考えられます。

【ECサイト】
・購入後の「購入完了メール」のすぐ後に、その製品を購入している顧客レビューから、評価の高い「肯定的」なコメントを10個程度抜粋し、メールを送る。(自動化する事が前提)

【ホテルなどの予約】
・予約後の「予約完了メール」のすぐ後に、ホテルの歴史や魅力、選択した料理プランのこだわりポイントの紹介など(上位プランへのクロスセルは、認知的不協和が増すので行わない)のメールを送る。

ロイヤル顧客に至るには、2つのルートがある

冒頭でロイヤル顧客の定義を「企業の製品やサービスに高い愛着を持ってくれており、かつ、実質的な利益も与えてくれる顧客」とさせて頂きました。

自分の結論としては、「ロイヤル顧客に至るルートには2つあるのでは?」と考えています。

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