本ページではSAP導入のメリット・デメリットを解説していきます。
何故、世界中の大企業がこぞってSAPを使っているのか?
ここでは、一般的に言われているSAPを使うことのメリットとデメリットに加えて、SAP導入プロジェクトをいくつか経験してきた中で感じた個人的な意見も交えて解説しておきたいと思います。
※個人的な意見も交えているので、その点予めご了承ください。
SAPって何? そんな疑問をお持ちの方はこちらのページで詳しく解説しておりますので、是非一度お読みになってみてください。
それでは早速解説を始めていきます。目次
SAP導入のメリット
SAP導入のメリットは、大きく分けて3つに分類できます。
1つが、標準化―。
業務プロセスやデータ体系を、世界の優良企業のスタンダードに合わせることが可能です。
2つ目が、透明性の確保です。
権限管理や、履歴管理が最強なので一般ユーザの不正を防ぐことができます。
最後が、データの連続性です。
ERPパッケージ全体に共通する話ですが、1ユーザが入力したデータは、すぐに全社で確認することができるため、迅速な意思決定に貢献します。
上記3つのメリットについて具体例を交えながら一歩踏み込んで解説していきます。
まずは、1つ目の「標準化」です。
標準化
標準化の第1は、自社の業務プロセスを世界スタンダードに合致させることを言います。
SAPは「世界の優良企業のベストプラクティス」業務を基に設計されているため、世界基準の業務プロセスを採用することが必須となります。
※ベストプラクティスとは、簡単に言えば「一番イケてる形」という意味です。SAPはこの「一番イケてる業務」を基に設計されています。
各社独自の複雑な業務プロセスにより無理が生じている作業や、無駄なタスクにまみれ効率性が悪化しているのが日本の企業の特徴です。ありますよね、無駄な二重、三重の承認プロセスや、独自の帳票など。
SAP導入するには、この独自の無駄な業務を改革しなければならないのです。
いくらERPパッケージと言っても、ガラパゴス化した業務プロセスのままで適用できません。
したがって、SAP導入の際には大規模なBPR※と必要最低限のアドオン開発が必要となります。
※BPR・・・業務プロセスを改善すること。 Business Process Re-engineering の略。
アドオン開発の罠
SAPを新規導入する際に必要となるBPRとアドオン開発。
BPRで変えきれない部分はとりあえずアドオン開発しよう、という流れになるのですがアドオン開発には罠があります。
それは、この「標準化」という概念に反するということです。
そもそもSAP導入することの1つのメリットが、グローバルスタンダードなベストプラクティス業務に合わせることができる、というものでした。
したがって、業務に合わせることができない部分をアドオンで開発しよう!というのは、標準化のメリットを放棄することと同意である、ということです。
要件定義の際にSAPで実現できない業務であることが判明した際には
SAPに合わせて業務を変えましょう!
が正解であり
業務に合わせてアドオン開発しましょう!
は不正解なのです。
SAPのベストプラクティスに合わせる観点から、アドオン開発は基本間違いである最終手段である、ということを理解すべきです。
アドオン開発した場合、開発費用が上がるだけではなく、保守性も格段に落ちます。SAPを導入している企業で「バグ」と言ったら90%はアドオンのバグなのです。
このバグを減らすには、プログラミングスキルとか、設計スキルではなく、第1に考えるべきは「アドオンの削減」です。
SAP導入プロジェクトが、炎上しがちなのはここに大きな原因があると言えるでしょう。
透明性の確保
少しわき道に逸れてしまいましたが、SAP導入の2つ目のメリット―。透明性確保の解説に戻ります。
2つ目の「透明性確保」というのは、誰がいつ何をしたのか、ということを把握できる、ということです。
SAPは、履歴管理に優れており、伝票入力などデータの変更を伴う作業は全てユーザIDと紐づく形で履歴が残ります。プログラムの改訂履歴や変更箇所などを確認する機能も搭載されているのです。
履歴管理が適切になされているため、不正なデータ入力や不正なデータ改ざんを見抜くことができます(=システム監査をクリアできます)。SAP標準機能をそのまま利用する場合、いわゆる粉飾決算は不可能です。
このことにより、企業が法的に説明責任を持つ「財務諸表」の正当性が保たれるため、透明性の確保はそのまま企業評価に直結します。
データの連続性
これはSAPにとどまらず、そのほかのERP製品全般にも言えることです。
データの連続性とは、1つのトランザクションデータを複数の業務で利用可能になるということです。
従来の部分最適化された部門単位のシステムでは、調達した際に「調達しましたよ」というデータを入力し、同時に買掛金のデータを入力する必要がありました。
SAPでは、この2段階のステップを踏む必要がありません。調達データを入力したら、そのデータがリアルタイムに「買掛金」データになります。データが調達側と会計側で重複するのではなく、1つのデータとしてSAP内で連携されます。
データが連続することで、SAP内でのデータ不整合はありませんし、データの複数入力もなくなります。同時に、社内全体のデータ集計も迅速にできるようになります。
SAPを導入することは、システム的な観点から大きなメリットがあるのです。
「SAP」であること自体への評価
ここからは、あくまでも個人的な意見ですが、SAP導入の最大のメリットは「SAPを導入する」ということ自体への評価です。
SAPは全世界の最優良企業が多く採用・導入しており、ERPベンダーの中でも最大の評価を得ています。
そのため
SAPを導入する ≒ 優良企業である
であるという図式が現状一般の世間的な評価になりつつあるため、SAP導入による様々な実利的なメリットに加えて、評判なメリットも非常に大きいのです。
例えば、過去に粉飾決算をした企業がSAPを新規導入する―。これは、会社自体が変わろうとしている、という姿勢を会社内外に示すことにつながります。
砕けて言えば会社の「うさんくささ」を解消する力があるということです。
特にIT関係に従事する人間からすると、SAP=大企業・優良企業である、という実感は強いのではないでしょうか。
SAPを導入することは、標準化・透明性確保・データの連続性、という実利的なメリットに加えて、SAPを導入できていることの評判的なメリットがあると言えます。
SAP導入のデメリット
メリットだらけのSAPですが、デメリットがあるがゆえに採用しない会社があるわけです。
SAPを採用しない会社のSAPを導入しない理由を見ていきましょう。
ライセンス費用が高い
SAPは、ライセンス費用が高額です。このライセンスはユーザ数に応じた従量課金制であるため、ユーザ数が大きければ大きいほど、SAP社に払う金額は大きくなります。
自前で1からシステムを作れば、ライセンス費用は0となるので、その分コスト削減につながるので、金額面でSAP導入を断念する会社は多いでしょう。
システムの規模が大きくなりすぎて、ライセンス費用を払ったとしても全体としてコスト削減につながるような企業がSAP導入に踏み切ることが多いです。
開発者が少ない
SAPを導入する際に、開発コストが高くなる原因―。これは開発者の不足です。
企業システムの多くは「java」や「C」「C+」などで書かれることが多いのですが、SAPはSAPでしか使えない「ABAP」という言語を用います。
(一部javaで書くことが可能な機能もあります。)
「ABAP」という言語は、通常のプログラミングスクールで教えている話を聞いたことはありませんし、資料も乏しいです。このため、ABAPを書くことができる「ABAPer」は非常に少ないのが現状です。
「ABAP 転職」でググってみてください。需要過多により、給料がぐんぐん上がってしまっていることがわかるでしょう。ABAPer側からしたらうれしい限りなのですが、企業側からしたら年々徐々にハードルがあがっていると言えます。
まとめ
SAPは金額面にデメリットが見られます。
一方で、金額面さえクリアすればメリットだらけのSAPでもあります。
※それだけSAPというパッケージが優れているということでもあります。
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